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小話
2012/12/03 18:22



「ムッちゃんが飼いたい」
「・・・・・・・」

 どうしよう、弟がまたよくわからないことを言い始めたんだけど。
 ご馳走様でしたと手を合わせたままの姿勢で、六太は遠い眼をした。俺の弟はどうしてこう、頭はいいし顔もいいし気遣いもなにもかもが出来るのに、時々わけのわからないことを言うのだろう。やれやれと相手にせずに立ちあがる。それにムッちゃんってばーというので日々人を見下ろす。

「・・・・うちにはもうアポがいるからこれ以上は駄目です」
「えー」

 いや突っ込めよ。なに普通に返してんだ。色々とあった筈なのに不満気な顔をしている日々人に突っ込むのも体力を使いそうだったので、もういいかと食器を片づける。その後も何やら言っていたのだが、何時の間にやら静かになっていたのでリビングを振りかえれば間抜けな顔をして寝こけている弟がいる。アポを抱えたまま涎を垂らしているのに苦笑して毛布をかけてやった。





「南波を飼うだぁ?」

 頓狂な声を上げたのは新田零次。いや、あのうわーとかいう眼。向けないでくんない?
 やっぱり普通の話に織り交ぜるのは変だったかなぁと少し後悔しながら六太はポテトを齧る。

「え、なになに。どういう経緯でそんな話になったの?」

 うきうきと眼を向けて来るのは紫。勝手についてきた人が一番話に食いついて来ている。なんだか凄く嫌だ。普段の六太は何をしているかだのを根ほり葉ほり聞いてくるので、うんざりとして適当に話していたのだが。偶々昨夜の会話の内容を言ってしまったのが不味かった。
「じゃあはいはい!俺もムッちゃん買いたいです!」
「いやあのだから。アイツの悪い冗談なんですって」
「えー、俺も欲しいのに」
 半ば本気で言っているように見えるからこの人は性質が悪い。俺をからかう為だけにそんな演技見せなくてもいいのに。人をからかうことに人生を捧げているような人の冗談は分かりにくい。実際は本気の言葉だったのだが、冗談としか受け取っていない六太は気付かずやれやれと疲れたようにコーヒーに口を付ける。
 冗談でアイツが言ってきたことだと何度も言えば、引いた顔をしていた新田が急ににやりと笑った。
「まぁ、そういうことなら。俺の方が南波を立派に調教出来るな」
「ぶ!」

 思わず飲んでいたコーヒーを吹いた。ちょ、調教とか言うな!けらけら笑っているのを口元を拭って抗議する。

「無駄にイケメンなんだからそういう危ないこと言うなお前は!」
「なんでだよ。別に俺は、お前だったら本気で飼ってもいいんだぜ?」
「だからお前はなあ!」
「皆、待ってくれ。ムッ君は犬じゃないよ」

(ケンジー!)

 流石ケンジだ、唯一残った心の良心!
 顔を輝かせて振りかえった六太にケンジはにこやかに頷いて何故か六太の頭をよしよしと撫でた。

「ムッ君はもう、立派な家族なんだからね」
「・・・・・・・・・」

 お前もかブルータスゥウウウ!!

 優しく撫でてくれるケンジに六太は心で滂沱した。
 撫でられるままにもういいやとなっている六太をわしゃわしゃと構うケンジに、面白くなさそうに新田が声を挟む。

「おい、結局お前も南波を犬扱いしてんじゃねぇかよ」
「犬扱い?まさか、ムッ君はれっきとした家族の一員だよ?」
「いや、お前なんか怖ぇよケンジ!」
「ちょっと真壁さん!ムッちゃんは俺のだよ!」
「って日々人!?お前どっから沸いて出、ぐえ!首!首絞まってる引っ張んな!」

 いつのまにやら背後から抱き付くようにしてケンジから六太をひっぺがした日々人が威嚇するようにしている。自分よりかよっぽど手のかかる犬のようだった。
 まだ何故か俺のものだ俺のモノだとわいわいやっている面々に、六太は取り敢えず叫んだ。


 俺は俺のものだっての!

 あと人を犬扱いすんな!!



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