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小話
2012/12/03 18:21




「余計なお世話だ!」

 ビールを些か乱暴に卓上に叩きつける勢いで憤慨した六太が、荒れた様子で言った。だが店の人に迷惑にならないように実際はジョッキを普通に置いている。南波六太は基本的に大それたことや、人に迷惑をかけることをよしとしない男だった。なので声の音量も小さめである。
 だがそれでもやはり腹の虫はおさまらないらしい。今朝がた大学の教授に言われたことが未だに尾を引いていたのだ。本当はただ一緒に食事に行かないかを勘違いに勘違いを重ねて合コンにでも行けと捉えてこうなったようだが。
 しかし、真相というか、あの教授とは名ばかりの紫がただ六太との距離を縮めようとした結果だと知っている日々人は面白くない。

「ムッちゃん俺お持ち帰りなんて許さないかんね!」
「なんで話がそこまで進んでんだ!?しねーよっていうかお前みたいに俺は上手く出来ねぇんだよ!」

 嫌味か!と六太が涙目で睨めば、日々人が拗ねたような顔を返す。

「だって、俺だってしたことないのに!」
「え、そうなのか?お前モテんのに」

 六太をお持ち帰りしたことがないという日々人と、まさか兄である自分をとは考えてもいない六太が意外だなぁと少し驚く。

「だってムッちゃんにその気がなきゃ無理矢理になっちゃうじゃん」
「別にお前もいい大人なんだから、弟だからって俺に許可なんか求めなくていいんだぞ?」

 全然わかっていない六太がそれにと付け足して、照れ臭そうに笑った。

「俺はお前を信用してるからな」
「・・・・・・・っ」

 破壊力の有りすぎるはにかんだ笑顔に、日々人はくらりとよろめきつつも、それだけで機嫌が直ったのか、嬉しげに抱きつきつつ言う。

「心配しないでムッちゃん、俺は何があってもムッちゃん一筋だからね!」
「なにがだよ?」
「ムッちゃんはシャイだなぁ」
「・・・・・・・」

 よくわからないが、日々人が幸せそうだからまぁいいかと抱き付かれたまま六太が放って置いて数年。恐ろしいことに、このお互いの勘違いは六太がお見合いをすると日々人に言うまで続くことになる。
 そして当然のように、日々人によってお見合いはぶち壊されることになるのだが。あまり乗り気でもなかった六太に感謝され、また新たな勘違いをして、ムッちゃんは俺が幸せにする!と張り切る日々人により、六太の幸せへの道はどんどん狭まっていくのだった。


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