催花雨


 


 その日はとても賑やかな夜だった。特別な日、年に一度の祭りをみんなで歩く日。
赤と白の提灯や篝火の明かりは一つ一つは頼りない光だったが、集まって放つ熱気は弱くなく、ともにゆらゆらと幻想な世界を作っていた。なんとなく頼りないな――と私は思った。この世界は息を吹きかければ飛んでいってしまうのではないか、タンポポの綿毛のように。いや、蝋燭の火のように消えてしまうのではないだろうか。そうだ、燃え続けていることもなにかしらの不安を覚えるのはその土台は溶け、柔らに崩れ、くすんだ蝋を知っているから。いつ、そんなことに気づいたのか。
 ねえ、深い深い夜なのにその優しい帳を拒絶する日に私は静かに消えた。ひっそりと荷造りを終え、机上に置いていくのは破いた紙切れ一つ。紙に滲んだセピア色のインク。たった一言、別れの言葉。くしゃくしゃに丸めて一度は捨てたんだ。丁寧すぎる拾いなおし。
窓枠をしっかり両手で掴んで、足を掛けて、飛んだ。
 眩さが世界を覆っていて、たくさんのものを隠していた。私もその輝きに魅入られた一人だった。
 

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