催花雨


再び、暗がりがやってきた。
洞窟の中にいるようなひんやりとした湿り気が肌につく。出番だとばかりにランタンに火が入る。ヴェラは小さな唸り声を漏らした。眩しさが気分を害しているようだった。ただ、嬉々と明かりを点していくカリナに文句は言えない様子だった。ランタンを一つ譲り受けて、前にかざす。規則正しい石畳で今のところ歩くのに不自由はなさそう。
「準備がいいだろう。褒めてくれていいぞ」
先頭からでっかい溜め息が響き渡った。
カランコロン。不思議な音が響いた。木琴を叩いたような。
カリナは苦虫を潰したような表情でランタンを上げた。
「ヴェラ? なんだそれは」
ヴェラがおもむろに振り返る。
「う、し、ろ?」
ヴェラの口の動きに合わせてカリナが唱える。うしろ、うしろ。
「なにが後ろ?」
そっと振り返った先はただ暗い。カリナは腑に落ちない表情を作って、ランタンをゆらゆら。も一度、ヴェラを見る。唇はまだ同じ動きをしている。二人のやり取りに首を傾げるしかない。
「なにもないぞ? どうした?」
カリナに問われて、ヴェラは不満げに口を尖らせて真似るように小首を傾げた。この子がこんなことをする理由はまったく見当がつかなかったが、なにかあるのだろう。また唇が同じように動いた。
「後ろがどうしたの?」
目線を合わせようと少し屈んで聞いてみる。何言ってるかわからないだろうけど……そこらへんはカリナが訳してくれるだろう。唇は違う動きをみせた。
「………はあ?」
無駄にデカい素っ頓狂な声が隣であがった。耳を塞いで、その音源を睨みつけた。ひそやかな謝罪は一応返ってきた。
「わるい、悪い。いや、だってなあ」
「どうしたの?」
「入口にえっと……誰か来たって言ってるんだよ」
どうにも歯切れの悪そう。まだなにかあると思って視線を投げていると、
「ああ誰かじゃない、知り合いっぽいんだ、これが」
ほんとにばつが悪そうな顔をしている。頭をきながら、瞳が右往左往。
「それは戻ったほうがいいの?」
「おれは戻りたくない」
キリリとした表情でいう。ヴェラは不満げな顔になっていた。
 

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