催花雨


「なあ一つ提案があるのだが……」
大きな大きな咳払いをしてカリナは言った。
膝が笑い、腰が抜けるという逃亡劇としては情けない終わりを迎えた。結局、その場から動けなくなった。カリナのお姫様だっこによって元の部屋のベッドの上へ。子供のように膝を抱え込んで小さく丸まって、耳を傾けていた。
「君はヴェラに気に入られたからこのオレが面倒をみようと思う、ちゃんと」
「あ、そう」
なげやりな空返事でヴェラのことを思い返していた。
「ヴェラはあたしを気に入ったのか……なんで? どこ? いつ?」
「知らんよ。オレだってこの子達のこと未だにわからんことだらけなんだから」
「え?」
「オレはなんかはさあ。使えると認識してくれたからいいけど……容赦ないだよね、この子達。徹底的に排除するって性質なのかなあ、今までもちょっと色々とね」
「あ?」
ケロッとなんと言ったのか、間抜けな声が身体を抜けていった。
「つまり気に入られなかったら?」
カリナは無言で笑みを深めるだけで背中にぞくりと冷ややかなものが奔った。この人、承知の上でここに連れてきたのか。助けてやっただのデカい顔をして、身の保証もできないところに。
「直感で大丈夫だと思ったんだ。ほら全然問題なかったろう」
「なんて人……」
文句の一つをつけてやろうとしたのと同時に扉が鳴った。控え目なノックの音が一回、二回。
「大丈夫だよ、ヴェラ! この人、怒ってないってよ」
しょんぼりと身体を縮こまったヴェラが入ってきた。前みたい可愛いとは思えなくて、むしろ身構えてしまう。そんなことなどお構いなしにヴェラはベットに駆け寄ってきた。
「こらこら、これは病み上がりってやつなんだからそっとしてやんな」
カリナは毛布に飛び乗ろうとするヴェラの首根っこを掴んで、自分の胸元へ。抱きかかえた姿勢で続ける。
「ちったい邪魔も入ってズレたが、元に戻そう。きみは身一つってやつで己の名前しかわからない。なにしろわかることが少なくて、なにから手をつけていいかすらわからず困っているんだよな」
そうだ、肯く。
「そこで身の保証や世話をわたしがやってもいいと提案してるんだ」
ちょっと偉そうだけど、まあ肯く。
「よし。では、次に進もうか」
勝手だけど、まあいいかと他に選択肢がなさそうだし。
「君が目指していた場所は見当がつくんだ」
「ほんと?」
「ああ? まあなにもない場所だからな……」
カリナはなぜか遠く見て言ったことは気になったが、身を乗り出して聞いた。
「……ああ、そう思ってみれば似てるな、そいつらと君」
またカリナの表情に笑顔が、爽快ないやらしさが戻ってきていた。彼女はこの感じが似合う。まじまじと人の顔を眺めて呟いた。

 

拍手 戻る



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -