催花雨


 
 
ベットから出ようと思った。正直、寝ていなくていけない人間ではない。倒れたとはいえ怪我はなかったし、わたしは健康だ。どれだけ横になっていたか知らないけれど、身体が凝り固まってしまう不安がある。簡単な運動を若い身体が欲している。だから、出ようと決心した。この部屋から出るのはまた別に置いておく。あのお二人は消えたっきり帰ってこない。どうぞ末永く仲良く帰ってこないで、そんな小言を脳裏で吐く。だって何らかわからないのはお互い様、顔を合わせたところでなにも進歩がないものなんて無駄だ。ドライな感情がひたひたを心を覆っていた。それでもこの部屋から脱走しようと思わないのは、この外が未知数すぎるからだ。そこまで無謀な馬鹿じゃないということだ。とはいえ、これもこのまま進展がない状況。ここに身を置いとくのはいかがなものか。様々な思慮が過ぎっては右往左往して消える。ベットに腰を掛けた。ゆっくりと足を床に下ろしてみる。慎重すぎる。でも慎重すぎて損はないと思った。
「さてまた……実は草原のときとあまり変わってない気がするなあ、わたしの有り様」
冷たい。板間かと思ったが、よく見たら木目模様のタイルが敷き詰められていた。絨毯くらい敷いていればいいのに。
現状で行方知れずの荷物は取り戻したほうがいいのだろうか。得体の知れなさではあれも大して変わりないことを思い出した。いざとなったら身一つで良い気はする。今のわたしにとって知っているものが、つまり信頼におけるものが――自分がいないのだ。自分ですら危ういか。ここまでは楽天的に世界を回らせていた。でも突如として訪れる悲観的なものの対処は苦手だ。どんどん暗い方へ、いとも簡単に引き摺られていってしまう。太刀打ちできないのだ、わたしは、きっとわたしは――。
チリチリと蝋燭の炎が燃えている。じりじりと煤が天井に黒点を作る。ヒリヒリと古傷が痛んだ。
ハッとするほど僅かな間だったが、寝てしまったらしい。頭が重く、思考が淀んだ独特の野暮ったい感覚が残っている。瞼も厚ぼったくて何度か擦った。やっぱり動くか。あっさりと切り替えが終わって、わたしは何事もなかったかのように立った。それと同時に扉の外で大きな音がなった。驚きからガクリと膝から崩れ落ちる。情けない四つん這いの姿で、
「なに?」
しばらくキョロキョロするしかなかった。そのあとはなにもなく、少し拍子抜けした。


拍手 戻る



×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -