しかしそれは杞憂だったようで、草次郎におつかいさせられた子は俺の前にトレーを置くと、僅かに頬を赤く染めながら「召し上がってください」と頭を下げてどこかに去っていってしまった。
「……え? あ、お金…」 「ああ僕が渡しといたから大丈夫だよぉ」 「え、すみません」
払いますと財布を出そうとすると、笑いながら「奢るもんそのくらい」と手で制された。
「……は? なんでよ」 「いいんだよぉ僕これでも三年生なんだから。それに、馨ちゃんの親衛隊設立記念ってことで、ねぇ。おねがい」 「え、まじで? …じゃあありがたく貰おっかな」 「ふふ」
笑うばかりで頷かない先輩に、ただのオレンジ頭だと思っていたことを反省した。
「さっきの子ねぇ、あの子も馨ちゃんの親衛隊の入隊希望者だよぉ」 「えっ」
嘘まじで。あんな普通の子も親衛隊?とやらに入りたいと思うのだろうか。なんだか未だ未知の世界である。ふうんと頷くとなぜか笑われてしまった。いつもの子供みたいな笑い方じゃなくて、呆れたような笑い方が、少し副会長に似ている気がした。
その顔を見ながら、あれどこまで聞いたっけと思い返していたとき、ふっと草次郎の表情から笑みが消えた。
「カオルくん?」
どうかしたのだろうか。「草次郎」と声をかけようとしたとき、後ろから名前を呼ばれた。 え?と振り返ると、背景に花を背負ったような、甘い雰囲気を纏った緒方が、珍しく私服姿で俺を見ていて、俺が振り返った瞬間「やっぱり」と嬉しそうに笑った。
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