目尻からくちびるが離されて、目が合う。


「そんなこと思う価値ないよ」


そう静かに紡いだ赤いくちびるが弧を描き、笑みをつくりかけたがそれは結局中途半端に終わった。ため息よりも微かな細い息が吐きだされる。


「…………俺は」


あいつのことは知らねえ。知らねえけど、飯塚にとってこいつの価値がなくなったとかそういうのは有り得ないことは知ってる。そうだったらこんなクソみたいな嫉妬までして醜態を晒してない。そう言う奴じゃない。しかしそれを伝える余裕はもうない。
どういうつもりか知らねえけど、抱くだけ抱いてこんなこと言わせるクズと一緒にされたくない。


「あいつがどうかは、知らねえけどキツいんだよ」


胸の奥が炙られているように痛い。
どこの馬の骨とも知れない奴に、傷つけられたこともそうだが、自分と同じような立場だとどこか無意識で安心していた飯塚に、どうしてあいつがという理不尽な感情がただ渦巻く。


「嫉妬もさせてくんねえの」

「岬ちゃん」

「何回言わせんだよ、お前のことが好きなんだよ。他の奴と口きくな触んなどっか行くなここにいろ」



今更寮に戻って、馨が少しずつ周りと打ち解けていくのも、飯塚がいるかもしれない校舎で授業を受けさせるのも、阿久津たちが親衛隊として動くのも、全部見たくない。ここで全て事足りる。

そしてあの赤髪の同室者の顔が思い浮かんだ瞬間なんで、と言葉が続いた。



「なんであいつなんだよ」




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