なんだろう。手を伸ばすと、分厚いファイルが渡された。 ピンク色のそれには授業のものらしいプリントと共にノートのコピーが丁寧にファイリングされている。
「おまえの担任が、渡せって」
「、」
そう言う岬ちゃんの視線を感じながら、ゆっくりとファイルをめくった。
中のノートの字は見覚えがあった。委員長の字だ。黒板に書かれた文字と同じ、少し右肩あがりの癖のある字でかかれたノートとプリント。一番最後までめくる。ルーズリーフの裏に、委員長の字でおれの体調を気遣う言葉と、勉強についていけるか心配する言葉、最後になぜか、お礼が書いてあった。体育祭で鈴木が楽しんでくれたから、クラスの奴らも楽しんでた。盛り上げてくれてありがとう。体調良くなったら戻って来いよ。そう締めくくられたページをじっと眺めてから裏のページを見ると、カラフルなペンでクラスメイトからの見舞いの言葉がつづられていた。
体育祭の日にクラスでお揃いできたTシャツを思い出す。こんなふうにみんなが書いてくれた。
でもあれももう、着ることはないのだと思い出して、またその分厚いファイルをめくって見つめていると、視界が一瞬ぼやけたような気がしたが、気のせいだったのか、ファイルが濡れることはない。
かなしいと思った。
「馨」
俯いている俺をどう思ったのか、岬ちゃんが気づかわしげに俺の名前を呼ぶ。
「体調崩して入院中ってことになってるから、誰も知らねえよ」
「うん」
勘違いしたのか、見当違いの気遣いをする岬ちゃんにうすく笑う。
俺は頭がいいわけではない。 未だって、プリントの内容がすっと頭に入っているわけではない。 日本語だってまだ完璧じゃない。未だに電子辞書は手放せない。委員長はそれに気づいているのかいないのか、歴史上の人物名の上にはふりがながふってあった。
「馨……」
耳に髪の毛をかけられた。 昴が丁寧に俺に触れるのに対して、岬ちゃんはその美貌に似合わず乱雑に触れる。
「学校行きたいか?」
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