「……あの、特に読み方決めてないんです。ただまあ、自分では……ヴィー って呼ぶのが……そうですね、最近では」
「ふむ。それではヴィー君。つまりこれはオフ会ということだ。君の身体に初めましてを言おう。
 それではまず私が君の問いに答えなければなるまい。条例に触れない範囲で何でも訊いてくれたまえ。勿論運命判断もしよう。さ、何がいいかな」

 ツッコミ所は多々あるがそれは質問とは違う。

「あの、まず、なんでオレの名前を知ってるんですか。なんで見ただけでオレって分かったんですか」

 フム、と†闇巫ノ騎士†は顎をさすった。言動がいちいちうさん臭い。

「ヴィー君。それにはまず、私が視えるということを説明せねばならぬ。何、君もこの手の事象に抵抗はないだろう。私は、視える。そうとしか答えられないし、それだけで要項は掴める筈だ。もっとも身体的特性や住所や家族は、直接的には分からない。ただ私が君を視て、君にいくつかの質問をしながら推理すれば目星は付くだろう。それは情報量の問題であって誰にでも成せる探偵の業だ。そうではなく、私が大勢の中から君を見抜いたことであるが……」

 スッと人差し指を掲げる。

「それが、視えるということだ。分かると言ってもいいのかも知れない。ただし私は自由自在に全てを視渡せる超能力者ではない。時が要請するから、私に視えるだけなのだ。私が君を捜していたから視えた。私の目の前を君の身体が通ったから君が視えたのだ。私が君を自在に呼ぶことは出来ない。無いものを見ることは出来ないからね。見えたから、視えるのだ」
「それって、サトリとか、透視とかではないんですか」
「あれは見えないものを視る術だ。私には視えるものしか視えない。待ち合わせの相手がいるから見つけられる。探しているから見つかる。必要があるから視えるだけだ。だから私は君を無償で視ている。私が君を見つけ、呼び留めたからだ。それでは何故呼びとめたのか。求めるものを、君が持っているからだ。雨乞いをするから雨が降るのではないよ、雨が降りそうな雲や風を見出して雨乞いをする、だから雨乞いは成立する。君は、そう、非常にぐずついた空模様だ。降らないという方がおかしい。だから私は、君に傘を与えようと思う。その代わり雨が降るまでちょいとつき合って欲しい。なにせここらは長らく日照りでね。私は民衆のために雨乞いダンスをしたいのだがあいにく雨雲の気配がなかった。そこに雨男がやって来た。これはもう、踊るしかない。君も傘を差したいし、頭上の雨雲を取り払ってスッキリとした青空を拝みたいだろう? そういうことだ」
「あの、いいですか」
「何なりと」
「比喩が多過ぎて何言ってんのか全ッ然分かんないんですけど」
「ふむ。見えないものを語る話術が比喩というものだ。すまないな」

 全くもって訳が分からないが、少なくともこの男がマジということは分かった。

「とにかく利益は一致する。この辺りでは日照りが激しく、民衆は苦しんでいる。私、祈祷師は雨乞いをする。しかしそれには雨雲が必要だ。そこに今にも降りそうな雨雲を携えて雨男がやって来た。それが君だ。君は雨具を持っていない。そこで、傘をやるからちょっと降るまで付き合ってくれないかという話だ」

 紙にビミョーな図を書いて説明する。棒人間で「民」「祈」。雨男(僕)は頭上に雲をのせている。描かれた太陽はのどかなポカポカ陽気みたいだが、民に「日照り」の矢印を突き刺す。「祈」から「民」に向けて「雨乞い」の矢印。「祈」の手に「傘」。

「ここまで、分かるね?」
「まあ、なんとなく」
「質問があるだろう?」
「言っていいんですか?」
「勿論だとも」
「その、たとえ話の中の、傘は分かります。アドバイスとか、僕にとっての利益ですよね、何らかの」
「呑み込みが早くて嬉しいよ」
「雨と、雨雲。それから日照り。これは何なんです?」
「ふむ。雨雲は君が抱く障壁……言わば悩みだ。君の青空を覆い隠している。君の苦悩は、我々が直面する事態にとって大いに有用なのだ。我々は多かれ少なかれ苦悩するものだが、君の苦悩は雨雲だった。君の苦悩を晴らすことが、この瞬間に丁度よく適しているのだ。もしも民の悩みが日照りではなく洪水だったら……私は傘を貸すだけで、ここまで長話はしないよ」

 ふむ。
 つまり僕は利用されるらしい。


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