「いかに楽して節約するかだ。そんなに金があるわけじゃないし、まあ、うちの奴らは何食わせても食うし俺が食わせるから」
「“じゃことキャベツの酢の物”」
「食わせたし、食ったよ」
「さっすが」
「もう一回作ろうか考えてる。ま、主食にはならないんだけどな」
「肉に合わせるなら……ロールキャベツとか」
「挽き肉は、他の奴の、好物なんだ」
「ふうん」
「でも巻くの面倒くさいし」
「売ってるキャベツ小さくてさ、巻けねえっつうの、破れるし」
「な! 野菜高いし」
「高い!」
「ところでこのクッキー普通にうまい」
「でしょ? おれが作ったの」
「女子力たけえな」
「やめろよ」
「女子力高い透明人間」
「そんなキモチワルイ生物に生まれた覚えはない」
「まあ、キモイよ。うまいけど」
「……どうも」
「クッキーとか面倒くさいじゃん。生地作って、そのあと型抜いて焼かなきゃいけない」
「いや、暇だからさ」
「日中何やってんの?」
「色々」
「色々?」
「イカガワシイこと、とでも答えればいい?」
「は?」
「例えば。何だと思った?」
「え? えー…… 万引き、とか、覗き見、とか」
「ははっ」
「……んだよ、お前が言ったんじゃん笑うなよ」
「発想が若いな暗清黒梨」
「……あんた、幾つ?」
「おれから見りゃ君なんてガキだよ。なこととかさとりんレベルだ」
「うわあ、すげえイラッと来た」
「子供は嫌いじゃないよ」
「だから、そういう扱いが」
「要するに日中はこうやってお菓子持ってひとん家に遊びに行くのが楽しみですね」
「遊びに、じゃなくて押し掛けてんだろ」
「そのまま住み着くのが特技です」
「来んな、透明来んな!」
「酷い、傷ついたっ」
「……!? 触んな!」
「驚いた?」
「お前に住み憑かれた紳士が残念過ぎる」
「そうでもないよ」
「……まあ、俺は、八人養ってるような感じだけど」
「大家族だ」
「擬似的、な」
「そう? 違いがあるとは思えないな」
「……。お前ん所は」
「他人」
「他人、なのか」
「他人だよ」
「……へえ」
「だが、他人と家族に違いがあるのか」
「……そういう話題は。嫌だよ。
俺は、家族じゃなくても、今日の飯を作る、から」
「……」
「……って、恥ずかしい、てか、拍手すんな!」
「はは、いや、いいね、いいと思う」
「お前と話してると、調子狂う」
「でも、話せてる」
「……なんだろうな」
「そういうことだよ」
「自問自答してる気分になるんだけどさ。やっぱり俺の関心とあんたのはズレてるんだよ。あんたは、やっぱり、俺と違うところに住んでいる他人だ」
「そう。
感覚が完全に一致した暁には、透けちゃうだろうね」
「俺が?」
「君はきっと色素が薄いから簡単に透けそうだ」
「違う、脱色だ」
「知ってるよ」
「俺は透けないよ」
「皆そう言うよ」
「……ま、一日だったら、構わないけど」
「皆そう言う」
「一日試しになって、散々遊んで、そんで、戻れないオチ?」
「ああ。じゃあその時は手取り足取り教えてやるよ。イカガワシイこと」
「あんたに教わるのヤだな」
「すぐに慣れるよ。そして、すぐに飽きるさ」
return / 0609 written by.yodaka