Sample : She Sells~

Sheは髪の色も瞳の色も薄い色をしていて、肌の色も太陽に見はなされたみたいに真っ白だった。
風景の中でSheだけが色あせていた。ポラロイドカメラで写した女の子をハイビジョン映像に合成したみたいに。でもSheが流行遅れとか機械音痴とかいうことではない。ただ、Sheは薄い色をしている。過剰露光の写真に似ている。これで写真を撮るのはSheの方なのだから笑える。

Sheはどうでもいいものをたくさん撮る。
空だとか電線だとか路地裏の様子や今日の服装や僕の部屋ばかり写す。
現像した写真を僕に見せるのだが僕には写真の良し悪しが分からない。
というのも僕はなんだってそれなりに楽しめてしまうのである。
厳しい言い方だが、審美眼の欠如だ。由々しき事態だ。

写真を捲っているとときどき僕がいる。
36枚撮りフィルムに平均して2、3人いる僕はひとりもピースなどしたことがなく、たいてい遠景でカメラと無縁な方を見ているか、こちらを見ているとすればレンズか顔かを手で覆っている。
由々しき事態だ。隠し撮りではないか。僕だって肖像権はあるはずなのに。

真顔の僕がこちらを見つめている。近過ぎてピントがぼけている。先日振り向きざまに撮られたのを思い出した。僕だって肖像権はあるはずなのに。

Sheのカメラに写る僕は現実の彩度より高く、時折過剰露光でノイズがかかった。僕がSheみたいに見えた。安いカメラなのだとSheは言った。Sheはずっと撮っていた。自分を撮るときも鏡を使い他人にシャッターを切らせなかった。僕はと言えば写真は撮るのもそんなに好きとは言えなかった。

写真の僕らはいつもばらばらに写った。
とうとうふたりのツーショットは一枚も撮られることがなかった。


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COMITIA104 頒布
『She Sells Sea Shells by the Seashore』より

2013.May.01 : 文字

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