その後、なんとか自分に現状を半ば無理やり納得させ多少は落ち着きを取り戻した私は、目の前にいる人間――いや、ボーカロイドの彼らを見やった。
「えー…っと、それで君が幸村で、そっちが、」
「佐助。よろしくねー名前ちゃん!」
「shit!てめェ…!俺を差し置いて先に名乗ってんじゃねぇ!」
「はいはいストップストップー!」
ぎゃーぎゃーわーわーと明るい橙色の髪を揺らす佐助とキッと睨みつけ食ってかかる政宗を仲裁する。刑部のことだから、絶対この二人の相性が最悪なのを分かってて、面白がって渡したに決まってる。まったく彼らしいったら、と私はニヤリと笑う親友を思い浮かべ溜め息をついた。
そして現れた時に特に強烈な印象を残してくれた幸村、というらしい青年は現在、騒ぐ二人をよそに正座をしてうなだれていた。さっきまでのあの元気はどこいったんだ。
「幸村、どうかした…?」
「そ、某はその…歌があまり得意ではなく…」
初対面でかましたそれと同じとは思えない尻すぼんでいく声に耳を傾ける。
「佐助や、政宗殿は、その、優秀であるゆえ…某がますたー殿のお役に立てるかどうか…」
「なあんだ、そんなことか」
私の言葉に不安げに瞳を揺らしていた幸村が目を瞬く。まあるい真っ直ぐなその目が捨てられまいと縋る小犬のようで。気づけば私は彼の頭を撫でていた。
「まっ…ますたーど、の…?」
「確かに君は歌うために作られたんだろうけど…」
なにも、それだけを求めているわけじゃないのだから。
「私は、ただ君たちが傍にいてくれるだけでいいんだ」
「……!」
寂しい、と甘えを零した私への親友からの最高の贈り物。それが目の前の彼ら。静かなこの家にきっと彩りを与えてくれるだろう。
「だってさ、旦那!」
「う、うむ!」
「予想通り最高のmasterだぜ」
幸村の肩を叩いて笑った佐助と政宗に笑みを返す。鮮明に描けるこれからに私は胸を踊らせた。刑部、あなたのおかげで毎日が楽しくなりそうだよ。
「これからよろしく、みんな」
ようこそ我が家へ!
「…ところで、まだ光ってるってことは……」
「アイツらもそろそろ来るな」
…刑部は一体何人よこすつもりなんだろうか。
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