歌、うた、唄。
流れる音楽に身を委ねながら目を閉じた。そこには暗闇が広がることもなく、まるで歌の世界へと引き込まれるようで。
ほう、と漏らした吐息に反応したのは、ベッドに腰掛けたまま本を読んでいた刑部…は、あだ名で、本名大谷吉継だった。
「やれ名前、どうした」
ぱたりと本を閉じて聞く体制になる刑部に苦笑する。昔からこの親友は何かと私に甘い所があるのは否めなかった。それに甘える私も私だけれど。
「なんでもないよ。ただ音楽に感極まっただけ」
「素直に言いやれ」
「う…刑部目敏い…」
「ぬしにのみよ」
なんて言うからつい頼っちゃうんだよなぁ。
本当に大したことなんてないのに、ひたりと見据えてくる刑部に白旗を上げたのはすぐだった。
「…あーいや、さ、私って、一人暮らしでしょ?」
「そうよなぁ」
「今日だって、刑部、帰らなきゃいけないし、」
「?」
「一人で聴くのもいいけど、さ…やっぱり、寂しいなぁ、」
―――なんて、
言い切ったと同時に起こる沈黙。途端に羞恥心が浮かんで一人恥ずかしさを耐える私に、刑部はほう、と頷いただけだった。それもどうかと思う。
「寂しいか」
「え、再びそれ訊く?」
「我が帰って寂しいと?」
「もう勘弁してください」
なんの拷問だ。熱を帯びた顔のままじとりと睨む私に、刑部はゆったりと立ち上がりながらその掌を私の頭へと伸ばした。
「ヒヒッ、あいわかった」
にんまりと、見上げる先でその瞳が笑った。
「名前よ、ちと、待ちやれ」
そう言って刑部が帰っていったのは果たしていつだったか。
今目の前の玄関先に佇む姿は久しぶりで、しかもお土産のように渡してきた袋に戸惑うことしかできない。え、なにこれどういうこと?
「巷で流行りのものに倣って我が手を加えた。ソレならば少しでも寂しくなかろ」
「ソレ…?」
「開けてみやれ」
袋の中から手に取った一つのパッケージ。そこには―――
「ボーカ、ロイド……?」
目を見張る私に刑部は笑う。
これが全ての始まりだなんて、今はまだ、思えるわけがなかったんだ。
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