イケメン空気×洗浄機


背を強くコンクリの床に叩きつけられ息が詰まる。吐き出そうとした二酸化炭素は踏みつけられた胸でせき止められ倒れ込んだ折にぶつけた後頭部が鈍く痛みを訴える。次々と体を襲う痛みと混乱から逃れようと伸ばした腕が近づいてきた男の掌に握り締められた。

「何で逃げるの」

淡々としていっそ見事な程に感情の抜け落ちた瞳が俺を射抜く。狭められた気道から微かに息が漏れた。

「何で逃げるの。どうして俺から逃げるの。何で居なくなろうとするの。」

ああ、この馬鹿。
嘘みたいに整った顔が、氾濫した激情に歪められる。俺は求めるものを得られず不満げに震える腕をどうにか動かして男の胸板を押し返した。
打撃音。
硬質なものとものがぶつかりあい、互いを傷つける。
ガチリ、と脳の一番奥で嫌な音がした。

「おい、」

体に蓄積された汚泥がじわじわと俺の体を腐らせていく。先の衝撃でとうとう服では隠しきれない程に広がってしまった赤黒い痣がアイツの眼前に晒された。
空色の美しい瞳が大きく開かれ、引きつった声を喉が漏らす。
「…いつから、」
「…ごめん、」
「―――俺の、所為?」

力なく首を振る。息が苦しい。

「…近づきすぎた、自分の所為だ…。」

終わりを早める事など、最初からわかっていた。それでも傍にと願ったのは、清らかな頃の彼を忘れられなかった自分の方だ。
もう一度、あの柔らかな笑顔が、どうしても見たかった。
頬を叩く大粒の涙。広がる痣。
呆然と黙ったままの彼に、俺はひどく動きにくくなった体を無理矢理に動かし、頭を寄せた。咄嗟に俺を引き離そうとするアイツの腕が体に触れるその前に、重なった唇の僅かな隙間から大きく息を吸った。

彼の頬に添えた手の、僅かな肌の色を最後に、目を閉じた。



201105242115

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