【ACCIDENT】

すみっこ様(HP)

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 偶然に偶然が重なった、昼下がりのゼロス邸。
「つまり、まとめると、だな…」
 苦笑いしながら家主が口を開く。
「私はパパに会いに来たの。思ったより元気そうだったよ」
 マルタはにっこり笑ってそう言った。ヴァンガード総帥だった父ブルートは然るべき償いのためにメルトキオに服役中だった。
「で、メルトキオに来るのなら、とゼロスに会いに来たんです」
 同じように笑うエミルに、ロイドとコレットが続いた。
「俺たちはエクスフィア回収の現状報告をしに」
「王様に謁見してきたんだよ。それで、せっかくだからゼロスに会いに来たの」
「私はハーフエルフ差別法撤廃後の動向を報告に。ユアンからのことづても含めてね」
 リフィルがコーヒーをすすりながら説明する。エミルやマルタは知らないことだが、ユアンは旧ディザイアンやレネゲードなどの多くのハーフエルフたちを統轄しており、リフィルは密に連絡を取り合っている。ましてやレネゲードはテセアラ王家と繋がりがあったのだ。
 姉リフィルと共に旅をしているジーニアスが幼なじみを見やる。
「まさかお城でロイドやコレットに会えるとは思わなかったけどね。プ、プレセアにも会えたし…」
「私はメルトキオの雑貨店を見に。今、都会向けの新作を考案中なので」
 ジーニアスの赤面に気付いてか気付かないでか、隣のプレセアは微笑んだ。
「私はレザレノ支社の様子を見に」
 リーガルは紅茶をすする。コーヒー派と紅茶派でリフィルと軽い衝突をしたのはつい先程のことだった。
「で、ついでに俺さまの元に来たってか…」
 ついでに、を強調して嘆息してから、ゼロスは隣に立つしいなの肩に腕をかけた。
「しいなは純粋に俺さまに会いに来てくれたんだよな?」
「おあいにくさま。あたしは任務で陛下に謁見しに来ただけさ。あんたはついでだよ、ついで」
 ぺしっと音を立ててその腕を振り払う。小さく舌打ちした兄を見て、同席していたセレスが軽くしいなを睨む。
「…今日は勘弁しておくれよ?」
「わかってますわ」
 困ったように小声で言うしいなに、セレスはつーんと横を向く。エミルは軽く首を傾げたが、深くは突っ込まなかった。
「セレスさんも、元気そうで何よりです」
「お気遣いありがとうございます」
 しいなへの態度とは打って変わって、セレスは笑顔を見せる。
「最近はあんまり体調崩すこともねーしな。心配してくれてありがとよ」
 妹のことになるとゼロスは必要以上に甘くなる。礼を述べ、もう一度苦笑いした。
「しっかしまあ…よく揃ったよな」
 9人の客を見てゼロスは感嘆する。
「そうだな。俺たちだってそう思ってるよ」
 友人のロイドが失笑した。久し振りにゼロスに会いに来たつもりが…。
「こんな偶然もあるんだね。まさか全員揃うなんて」
 エミルもつられて笑う。難を言えば、エミルにとってはリヒターもまた仲間に入るのだが。
 しかしそれはロイドたちにとっても同じこと。今は遠くに行ってしまった9人目の仲間がいる。
 だがそれは互いに明かさなかった。明かす必要もないことだ。
「こうしていると、みんなと旅をしてるときみたいだね」
 世界の破滅を目の前にしていたことを考えると不謹慎ではあるが、10人でわいわい旅をしていたあの頃は、確かに楽しかった。
「そだね。会えて嬉しいよ、マルタ」
「私も!」
 コレットとマルタが笑い合うのを皮切りに、各々が盛り上がる。

「…わたくしは仲間外れですわね」
 ゼロスの傍でセレスが呟く。しいなはそれを聞き逃さなかった。
「セレス、誰もそんなこと思ってないよ。あんただって当事者のひとりなんだ。コアを快く譲ってくれたから今の平和な世界があるんだよ」
 しいなの力説を聞いて少し頬を赤らめたセレスに、言いたいことを全部言われちまった、とゼロスが独白した。

「プププププレセアは、メルトキオによく来るの?」
「そうですね。今でもマーテル教会に祭事用のご神木を納めることもありますし…」
「木こりのほうも続けているのね」
 ジーニアスとプレセアの会話にリフィルが口を挟む。
「はい。細工師としてはまだまだなので、アルテスタさんに教えてもらったりもしています」
「レザレノ・カンパニーにもときどき品を納めてもらっているのだが、細やかさと実用性を兼ね備えていると、なかなか好評なのだ」
 さらにリーガルが口を挟む。ジーニアスは目を輝かせた。
「さすがプレセアだね!」
「いえ、そんな…」
 照れたようにプレセアが俯く。そんな幼いふたりを、リフィルとリーガルは優しい目で見つめた。

 マルタがそっとコレットにささやく。その顔はどことなくいたずらっぽい笑みだ。
「コレットはロイドと一緒に旅をしてるんでしょ?」
「うん、そだよ?」
「ラブラブなんだ」
「えっ!?」
 頬を赤らめるコレットにロイドが首を傾げた。
「どうした?」
 しっかりと聞こえてしまったエミルは苦笑いしている。
「なんでもないよ!」
 もちろんロイドは腑に落ちない顔をしている。コレットは慌ててマルタに詰め寄った。
「もう! マルタだってエミルと一緒なんでしょ?」
 マルタはひらりとコレットから逃れ、エミルの腕に自分の腕を絡ませた。
「私はエミルとラブラブだもん」
「えっ、ま、マルタ!?」
 慌てたのはエミルだった。マルタは腕を抱きしめたまま、すりすりとその肩に頬擦りする。
「ねっ、エミル!!」
「え、ちょっと、マルタ!」
 つい出してしまった大声に全員が注目した。
「おっと、俺さまたち邪魔かな?」
「ゼロス!」
「なんだか気温が上がったね。ああ暑い暑い」
「しいな! ねえマルタ、離れてよ!」
 からかうふたりにエミルは怒鳴る。しかしマルタは離れない。
「相変わらず仲がいいようね」
「うむ。仲良きことは美しかな、だな」
「リフィルさん…、リーガルさんまで…」
 次にからかったふたりにはさすがに怒鳴れず、エミルは消沈した。
「別に照れなくてもいいんじゃない? みんな解ってるんだしさ」
「今更、ですね」
 今度は年下のふたりにからかわれる。なんだかいたたまれなくなって、エミルは赤い顔のまま俯いた。
「そろそろ離してやれよ、マルタ。エミルが困ってるだろ?」
 ロイドが助け舟を出した…かに思えた。
「ふたりで旅をしてるなら、いつでもくっつけるだろうし」
 とどめだった。エミルの浮上は呆気なく阻害される。
「みんな、面白がってるんだから…」
 諦めの言葉だった。
「ごめんごめん、エミル」
 そこでやっとマルタが離れた。
「でも、やっぱりみんなといると楽しいね!」
「そだね、またこうやってみんなで会いたいね」
 マルタとコレットが意気投合する。
「それは同感だけど…」
「またこうやって集まれたらいいな」
 エミルの呟きにロイドが提案する。
「俺も含めて、みんなそれぞれ予定があるだろうからさ、約束は出来ないけど…」
「こんな偶然、二度もあるかな?」
 その疑問に返ってきたのは笑みだった。
「ないとも言い切れないだろ?」
「それは…、まあ」
「きっとまた会えるさ」
 前向き過ぎるロイドに、毒気を抜かれてしまう。エミルはふっと息を吐く。
「そうだね。何ヶ月後か何年後かはわからないけど」
「案外、すぐ会えるかもしれないぞ?」
「かもしれないね。またみんなついででゼロスに会いに来たりして」
「多分そうだな」
 ふたりは声をあげて笑った。
「おまえらなあ…。聞こえてんだからな?」
 ふて腐れた声に、皆がどっと笑う。
 偶然は偶然を呼び、きっとまたこうやって集まるだろう。希望的観測ではあるが、全員がそれを予見していた。
 その偶然が仲間の絆というものだと解っていたから。


あとがき―――

 ユニゾナント企画というのに普通にカップリング話を投稿したのを反省し、書きました。
 S-Rを軸に話を書くことをあまりしたことがなかったのですが、エミルとマルタにとってクラトスやユアンのことなど謎はたくさんあれど、それを深く突っ込まず許容するスタンスを崩さないように書いてみたつもりです。
 SもS-Rも大好きな作品なので、これからS-UPをプレイしてもっともっと好きになりたいと思います。
 拙い文章ですが、読んで頂き本当にありがとうございました!






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