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※明日コンのバーテンチャンミン
付き合っていた彼氏に浮気をされた。あまりマメに連絡をいれるほうじゃなかったから、連絡が途絶えがちなことも大して気にしなかった。仕事が佳境に入っていたから余計に連絡をしなくなっていた私も悪い気がするけど。それでも、私の後輩と浮気相手ってどうなのかな?!元彼と半同棲状態の私の部屋にいたくなくて、こうなったらオシャレなバーにでも出かけようと普段は着ないような真紅の綺麗めワンピースを着て部屋をでた。背伸びした感がすごいけど、このバー【TOMORROW】に来るにはこのくらい勇気を出さないと来れない。
「こんばんは」
バーカウンターの中でグラスを丁寧に拭いていたバーテンのチャンミンさんは、口角をゆるく上げてこちらを見た。名前は前に来た時に名札を見てチェック済みである。チャンミンさんはまた伏し目がちにグラスを拭き始める。私、そのグラスになりたいです。職場の同期の結婚式の帰りに、未婚者同士で愚痴ろうと後輩と入ったのがこのバーだった。あの時の私は、数ヶ月後に後輩と彼がそういう関係になっているだなんて思いも寄らなかったな。二人して早く結婚して勝ち組になろうね、なんて言っていた事を思い出してため息が出た。嫌な事を思い出してしまって気分が落ち込む。
「元気がないようですが、何かあったんですか?」
カウンターに座ってぼーっとメニューを眺めていたら、チャンミンさんが話しかけてくれた。チャンミンさんの大きな目が心配そうに私を見ていて心臓が跳ねる。我ながら現金な奴だと思ったけど、こんな整った顔に見つめられたらキュンとしない女はそうそういないだろう。
「えぇ、ちょっと落ち込む事があって。何か勇気の出るものを下さい」
「勇気、ですか…かしこまりました」
こんなにかっこいいチャンミンさんと話すには勇気が必要だと思ってメニューを閉じてオーダーした。チャンミンさんは少し悩んだあと、ミキシンググラスに氷を入れてカクテルを作っていく。白いシャツの袖が邪魔にならないように肘の少し上でアームクリップで留めているから綺麗な手と手首が見える。レモンを搾る手に浮く筋がなんともセクシーだ。マドラーを持つ大きな手がゆっくりとした動作でカクテルをかき混ぜた。それから少しだけカクテルを手の甲に乗せて唇を寄せる。その仕草があまりにも絵になりすぎていて、じっと見ていたらふと視線を挙げたチャンミンさんが微笑んだ。その微笑みにまた心臓が跳ねた。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
ミキシンググラスから注がれたのは綺麗なレッド。ドキドキと早鐘を打つ心臓を誤魔化すようにグラスを傾ける。綺麗なレッドに負けないくらい強いアルコールに喉がひりひりとした。
「ん、すごく、勇気がでそう」
「アルコール強かったですか?」
「少しだけ。でも飲みやすいですね」
「飲み過ぎに気を付けて下さいね」
チャンミンさんはどうやら話相手になってくれるようで、カウンターに手を着いて微笑んだ。こんなに綺麗な顔に見られるといろんな意味で酔ってしまいそう。深いグリーンの飾りがついたループタイが良く似合っている。
「このカクテルの名前はなんですか?」
別段、興味はなかったけど何か話さないとこのドキドキが伝わってしまいそうで。グラスを傾ける私を待って、チャンミンさんは優しく微笑む。
「Sound of love、愛の音です」
「愛の音…」
「えぇ、貴女に愛が訪れますように」
小さくウィンクをしたチャンミンさんはカウンターから身を乗り出して私の手を掴んだ。
「貴女のお名前を伺ってもいいですか?」
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