useful persistence 2



辺りを見回しても、生きている奴は誰一人いなかった。
そこら中に転がる死体。何回も見ている光景といっても、やりきれなさに無意識のうちに舌打ちをしてしまう。

出発した当初、ななしも含め10名ほどいた俺の班員は巨人が襲来する中で散り散りになってしまった。
いつもよりも巨人の数が多い。馬を下りて返り血やらよく分からない顔についていたものをぬぐうと、再び舌打ちをした。

そして広がる死体に、俺の班員だった奴を見つけた。

「クソが...」

目前の死体を見るたびに、知っている顔を発見する。アイツも、コイツも死んだのか...。
そう考えていると、不意に膝の力が抜けて地面に膝をついてしまった。膨大な数の巨人を倒しているうちに、疲労がたまっていたようで、そう自覚してしまうと全身から力が抜けるのが分かった。
ブレードを地面に軽く刺して息を吐く。それでもやはり視界に入ってくる人の中に、無意識にななしの姿を探していた。

その時だった。



『――兵長!!後ろ傷ですよ!!――』



今この場で聞こえるはずがない、と頭では分かっていたが、俺はほぼ反射的にブレードを引き抜き自分の背後に向かって攻撃を仕掛ける。
空振りで終わるはずの一太刀は、驚くことに、今まさに俺をつかもうとしていた巨人の指を切り裂いていた。
目前に迫っていた巨人に少し驚きながらも、巨人が指を切られ怯んでいる隙に素早くアンカーを出して後ろに回り込み、首を切り裂く。

巨人は口を開けたまま倒れた。
俺はまた新たについた返り血をぬぐうと、ついさっき起こったことを思い返す。

―――後ろに巨人がいたことに、まったく気が付いていなかった。
あの時、あのななしの声が聞こえていなかったら―― いや、実際には幻聴というのが正しいのだろうが、それがなんであれ、日ごろのななしとのやりとりのおかげで難を逃れたことに違いはない。

「.......」

何か嫌な予感がする。
俺は馬にまたがると、すぐに壁に向かって駆けだした。





壁の中に入ると、命からがら生き延びた奴らが群がっていた。
俺を見るなり駆け寄って来るやつらをかき分けてななしの姿を探す。
いつも、壁外調査が終わるといの一番に駆け寄ってくるはずの、アイツの姿がいくら探しても見つからない。
しばらく辺りをかき分けていると、疲労が限界に達したのか、今度こそ本当に地面に膝をついてしまい首を垂れた。

オイ、あんなに「死なない」と豪語してたクセに、本当に殺しても死ななそうな奴のクセに、まるで、あの声が置き土産みてェじゃねえか...

「....クソ野郎、ふざけんなよ」

地面を見ながらそう思わず悪態が口をついたとき、だった。


「あああ、ああ!!」

間抜けな声に顔を上げると、全身に湿布やら血がにじんでいる包帯を巻いているななしが立っていた。
その顔には少し涙が浮かんでいる。

「へ、へへへ、へいちょーーー!!!いっ、生きてたんですね!もう、すごい、どれだけ、心配したかっ」

ななしが何かまだ言いかけていたが、俺は立ち上がって駆け寄ってきたななしを抱きしめた。

「え」

「...、俺はテメェがとうとうくたばったもんだと、」

「そそそそ、そんなわけないじゃないですかっ!もう、兵長にハグしてもらう、まで、って、い、今!?え、していただいちゃってるんですけど!?」

ななしはそう言ってようやく、事態を理解したのか慌て始めた。

「えっと、まだ兵長のこと殴ってない、気がするんですが、!?」

「...うるせェ」

「な、なんで!?なんだこの状況は...!?ゆ、夢...?」

と、しばらく混乱していたが、どうせならと思ったのか、ななしは俺の背中に手をまわしてきつく抱きしめ返してきた。

「ああ、もう夢でもいいです兵長大好き...」

意図せずとも命を救ってくれたコイツの功績に免じて、もう少しだけこのままでいてやることにする。
うわ言のようにかっこいいだの大好きだの繰り返すいつもと変わらない様子のななしをみて、俺は自分の杞憂に少しだけ笑みをこぼしてしまった。


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