見えなかった気持ちに乾杯



俺は超ルンルン気分で廊下を歩い...いや、スキップをしていた。
そして何故かは知らないがななしが渡してくれたこのドでかいチョコケーキを先ほどからちらちら眺めては顔を緩ませる、という行為を繰り返す。

これをみんなで分けて食おう!なんて言ったら途端に部屋のヒーロー間違いなしだな...。しかもななしによって作られたということもあって美味しくないわけがない。
少しばかりドヤ顔で部屋の扉を開けると、そこにいた奴ら全員に二度見された。

「え、おいコニー、なんだその箱」

「フハハ!聞いて驚くなよライナー!なんとこれは...超でかいチョコケーキだ!」

「は?」

俺がそういった瞬間「は?」と言ったのはライナーだけではなかった。
さらに何故か「おいまじかよウソだろ...」「ありえん...」とかいう悲痛な唸り声さえ聞こえる気がする。特にジャンなんて怒り狂った馬みたいだ。
みんなの反応が俺が想像していたものとギャップがありすぎて、しばらく箱を持ったまま入口に立ち尽くしていたが何とか口を開く。

「お、おいお前ら、なんでそんなにうろたえてんだよ?ケーキだぜケーキ!」

「...お前、もしかして分かってないのか?」

「は?分かってないってなんのことだよライナー」

俺がそう答えるとライナーはため息をついて頭を抱えた。俺の脳内にはハテナマークが浮かぶばかりである。

「...で、それは誰にもらったんだ?」

「ななしだけど」

一瞬周りがざわめき立つ。俺はさらに訳が分からなくなって、その部屋にいた常識人アルミンに目線で助けを求めた。
アルミンはそんな俺に苦笑いで応えると「コニー、こっち」と手招きをする。

「な、なんなんだよあいつら!」

「んー...。コニー、今日が何の日か知って...ないよね」

「は?今日なんか特別な日なのか?」

まったく状況についていけていない俺にアルミンは懇切丁寧に「今日はバレンタインデー」だということと、その「バレンタインデー」という日について教えてくれた。
そして説明を受けた俺はぶっちゃけもっと訳が分からなくなっていた。

「は、じゃあその説明で行くとななしは俺のことが好きってことじゃねーか」

そうつぶやいた瞬間部屋中の殺気が向けられた。思わず背筋が凍ったがアルミンが「まぁまぁ」と苦笑いで静めてくれる。
それと同時に俺は自分で口に出した言葉の意味をかみしめて、今更ながらに顔が熱くなってきた。まじかよ。俺、ななしにすっげー失礼な言葉返してなかったか...!?
そんな様子を察したアルミンは、未だ箱を抱えたままだった俺の肩をたたいて微笑んだ。

「コニー、ななしにきちんと謝罪と返事をしてきた方がいいと思うよ」

「お、おう...そうしてくるわ!」

そしてまだ降り注がれ中だった殺意の視線を振り払って部屋を飛び出した。



廊下に飛び出てから少し冷静になることができたので、改めて先ほどのことについて考えることにした。

ななしはこのバレンタインデーという日に、俺にチョコケーキを渡してくれた。それはつまり...あれだ。そういうことってことだろ!!
....で、俺の方はどうなんだ?ケーキを貰えたということがうれしいのか、それともななしから貰えたということがうれしいのか。
その瞬間、いつも少しへなっとしているななしがおそらく勇気を振り絞ってケーキを渡してくれた時のことを思い出す。
頬を赤らめてはにかんだアイツの顔に、こいつかわいいなと思ってないこともない。...いや、だいぶ思ったな。
そしてアイツと話すときは、ライナーとかジャンと話す時とは違った楽しさがある。そういえば何故だかまた話したい、とかそんな気持ちになっていた気がする。

....これって自分で気づいてなかっただけなんじゃね?俺も、ななしが好き...ってことなのか??
そうやって一人で悶々と考えながら廊下を歩いていると、誰かを抱きしめているアニとばっちり目があった。
俺はまさかの遭遇に息をのみ次の展開がどうなるか思考を凝らしたが、俺と目があった瞬間アニは何故か後ろを振り返ると立ち去ってしまった。

アニの謎の行動に対して俺がまたもやハテナマークを浮かべていると、先ほどまでアニに抱きしめられていた奴がこちらを向く。
そしてあろうことか、その振り返った人物はななしだったのだ。俺が心底驚いたのと同じようにななしも驚いたようで「コッコココ、コニー!?」と素っ頓狂な声を上げた。
そんなななしに軽くツッコミを入れてから、俺はななしに歩み寄った。

「ななし、さっきは...」

俺がそこまで言いかけると、ななしはすごい勢いで俺の言葉を遮った。

「そ!!そうそう!!そのことはもういいの、本当に!なんか迷惑かけちゃったみたいでごめんね!!」

顔は笑っているが、明らかにその目からは涙がこぼれている。
俺はなんだかんだで貰った時から肌身離さず持っていた箱を見つめると「...そんなことねぇよ」とつぶやいた。

「...え?」

「謝るのはこっちの方だぜ、ななし。俺さ、バレンタインっていうイベント知らなくて、その...お前に分けて食うとか言っちゃってさ..。本当に悪かった」

ななしは大きな眼を見開くと、またか細く「え?」と声を漏らした。

「そ、そうだったの...?な、なんだぁー...。私、コニーに嫌われてるって思い込んでたから...」

「いや!そんなことねえよ!!」

思わず強く否定すると、ななしが渡してくれた箱を前に突き出した。

「お、俺さ!このケーキ、ななしと一緒に食いたいんだけど...どうだ?」

その言葉に一瞬動きを止めたななしは、とびきりの笑顔を浮かべた。

「え...も、もちろん!ありがとうコニー!」

なぜか「こちらこそよろしくね!」と言いながら箱に手を添えてきたななしにドキリとしながらも、自然な笑顔になった彼女に俺も笑顔を浮かべる。
バレンタインデーというイベントは今さっき知ったばかりだが、なんて良いものなんだ!と少しの感動すら覚えていた。

そしてそれから数日間、二人で夜な夜なケーキを食らいつつバレンタインの余韻に浸る日々が続いたのはいうまでもない。


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