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 「ななしは今日もかわいいね〜 あ、そうそう!この前おいしい店を見つけ」

「うっさい変態!近寄るな!」

そう言ってななしは仕事に戻るため俺に背中を向けた。
この俺の一方的な愛を伝えるやりとりは、暗殺チームの中でほぼ毎日の恒例行事になっていた。
一見冷たいようにも見えるななしの返しだが、わざわざ仕事をいったん止めてくるりとこちらを向いてから言うあたりもかわいらしい。
近寄るな、と言われたが俺は全く気にせずに、これまたいつもの様にななしのそばに立った。
パソコンと睨めっこしている彼女の眉間にはしわが寄っていて、いい口実とばかりに「しわになるよ」とか言ってニヤニヤしながら眉間のしわを伸ばしてやると、「わっ!?」と小さく声を上げた彼女は突然立ちあがった。

「ちっ、近寄るなって言ったじゃん!」

「聞こえなかったな〜」

「っああもう!ほんっとうにムカつく!」

まだ子供っぽさが残る顔で、ななしは俺への敵意を露わにした顔をしている。まるで天敵に対峙した小動物のようだ。フシャーとか言ってそうな。
無邪気に笑ってる顔ももちろんベネだが、俺はななしのそんな敵意むき出しの顔が大好きだった。

「ン〜!その顔もベネッ!やっぱりななしは本当にかわいいなぁ〜?」

「うわっ!さ、触るなよ!」

自然にななしとの距離を詰めてほっぺを親指でなでてやると、彼女は素早く後ろに一歩下がった。やっぱり小動物みたいだ。
俺はその隙に、先ほどまでななしが座っていた椅子にドカッとわざとらしく座り、ニヤッと口角を上げた。

「お仕事しなくてもいいのかな〜?俺が椅子に座っちゃったけど」

「なっ・・・!メ、メローネこのやろっ・・・!」

俺は得意げに太ももの上をポンポンと叩く。遠まわしにここに座れ、と命令してみたのだがななしは顔を真っ赤にしてわなわなするだけで、一向に動こうとしない。
とりあえず座ってくれないということは分かったので、揃えていた足を組み机に頬杖をついてニヤニヤしていた。
するとななしが俺を指さして「リ、リーダーに言いつけるからなっ!」とだけ言い残して顔を真っ赤にさせたまま走り去ってしまった。
今日もいい目の保養だったな・・・と満足した俺は椅子から立ち上がった。










・・・今回の任務はそんなに難しいものではなかった。が、ムカつくことに少し油断した隙に左腕を切りつけられてしまった。
俺は軽く舌打ちをすると、早くアジトに戻ってしまいたい一心でアクセルを強く踏み込んだ。

アジトに着くや否や、包帯と消毒液を持ってきてソファに座りこんだ。一息つくと自分の傷が割と深いものだったことに気付く。情けねえな・・・。
やるせなくなってしばらく天井を見上げていたが、さすがに傷が痛むので簡単に処置してしまおうと消毒液を手に取ったときたっだ。

「メっメローネ!?」

どたどたとあわただしい足音とともに現れたのは、ほかでもないななしだった。

「お、おおお前その傷っ・・・!大丈夫なの?!」

「え〜 あ、まあ・・・」

「ちょっと貸して!」

ななしが突然現れたことにも驚いたが、なによりもこんなに真剣に俺の心配をしてくれているななしを見るのは初めてだったために、まともな返事を返すことができなかった。
いつもの無邪気な笑顔でもなく、怒った顔でもない。焦りと戸惑いの色を見せているその表情に、こんな状況にもかかわらず俺は見惚れてしまった。
ななしは俺がそんなことを考えているとはもちろん知るはずもなく、まるで自分が負った傷かのように顔を歪めながら、慣れないながらも腕の傷に消毒をしてきれいに包帯を巻いてくれた。

「ななし、ありがとうな」

「・・・っ馬鹿!この変態馬鹿メローネ!クズ!」

俺が頭を撫でようと手を挙げた瞬間罵詈雑言を並べられた驚きで、え、とだけ呟いて、持ち上げた手を思わず止めてしまった。

「なんだよっお前・・・普通に怪我してんじゃん・・・!なんでもっと注意して仕事しないの!」

言葉を絞り出すように俺に説教し始めたななしは、さらに驚くことにポロポロと涙を流していた。

「こっちはいつもっ・・ハラハラしながら待ってるんだよ!だ・・だから、・・・っく 傷なんて負わないで帰ってきてよ・・・っ」

そこまで言ってしまうと、ななしは戸惑いもせずに俺に抱き着いて、「ばかやろっ・・・」とか呟きながら涙をこぼしていた。

「・・・ごめんなななし」

俺は今度こそななしの頭に手を置いて優しくポンポン、と撫でてやった。
自分がこんなにもななしに思われてるなんて知らなかったな・・・。驚くほどに嬉しくてニヤニヤしてしまいそうだ。傷は確かに深いしもうごめんだが、今回はこんなななしを見ることができたからなんとか我慢しよう。

「今度から無傷で帰ってくるからさ〜 な?」

「・・・約束だぞ変態クズ野郎」

「そんなななしもかわいいよ ベネッ!」

いつもなら、うるさいだとか近寄るなとか返される言葉で場を和まそうとしたが、予想に反してななしは顔を真っ赤にして目に涙をためている。・・・ベネ。
そしてしばらくしてから、思い出したように顔をプイとそらして「・・・うるさい」とだけ呟いた。
・・・前言撤回して今後何回かわざと傷を作って帰ってきてみようか、と一瞬考えてしまったが、今度こそななしにビンタをされかねないのでやめた。
先ほどから離れようとしないななしの真っ赤な顔を眺めつつ、彼女の今世紀最大のデレ期を思う存分堪能しようと、俺はまた頭を撫でた。


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