素直じゃない



 ピンポーン!ピンポーン!

・・・・・・・

ピンポンピンポンピンポン!!!!

・・・・・・・

「なんだ、いないのか...」

そう言いつつもななしは雪の降る中漫画家宅ドア前に立ち尽くしていた。

ななしは仗助や億泰と同じ高校に通っている新聞部部員だ。
そしてこの杜王町に住んでいる有名な漫画家の取材担当になってしまったのが数ヶ月前。
最初はアポなしで押し掛けてしまって、突き返されてしまったり、折り合いが合わず取材にならなかったこともあった。
そんなことがあって正直初めはごめんだったが、だんだん心が開いてきてるような気がしなくもない、とななしは思い始めていた。
最近ではお茶菓子まで出してくれるようになった。これはすごい進歩だ!!
その上、その漫画家に関する記事は校内でも評判で、週一で新しい記事を書かなくなってしまった程である。
...その分このクソ寒い中を徒歩で漫画家宅に通う回数が多くなって、面倒くさいところだけど...なんて考えたりしているがそれほど嫌ではなかった。

今日は、世に言うバレンタインデーということで(一応)日ごろのお礼も兼ねて行列ができるケーキ屋さんのタルトを二つ買ってきたのだが、先ほどから呼び鈴に対する返答がないため、少し落ち込んでいたところである。
だがななしは自分がこのタルトのために並んだ約一時間がおしくてなかなか振り返って帰る気になれないのであった。
....しかし寒い。積雪約50cmといったところであろうか。しかも若干北風も吹いてきた。

「な、なんで今日に限ってこんなに寒いんだ!」

ななしは悲鳴を上げつつも、タルトの入った箱を片手にぶるぶる震える体を押さえていた。
最初に呼び鈴を鳴らしてから約2分。2分というと少なく思えるが、ただなにもしないで雪の中立っていると時間がゆっくりに感じるものである。
.....やっぱりそろそろ帰ろう。
そうななしが決心した瞬間、 
ガチャ。
待ち焦がれていた扉が開く音がした。

「ろ、露伴先生!?いたんですか!?」 

思わず声が裏返る。

「それはこっちのセリフだ。最初の呼び鈴からもう3分は経ってるのにまだここにいるなんてな」

漫画家改め岸辺露伴がドアを開けつつななしに馬鹿にするように言い放った。

「いやだってほら見てください!この箱!あの行列のできるケーキ屋さんで買ってきてやっ...さしあげたんですよ!」

ななしは語気を強めつつ箱を露伴の前に掲げた。
その箱をみて露伴は少し驚いたように目を見張ったが、そんなことはいいから早く入れ、とだけ言って奥に行ってしまった。
ななしはそんな露伴に少し疑問を抱いたが、とりあえず寒かったので遠慮なく中に入らせてもらった。

慣れた手つきでコートを掛けると、ななしはいつも取材させてもらう部屋に向かった。あったかい。
部屋に入るとすでに紅茶が用意されていて、さすが露伴先生わかってらっしゃると思いつつソファに座った。

「君はあんな寒いところに立ち尽くして、ちょっとは帰ろうとか思わなかったのかい?」

向かいのソファに座りながら皮肉っぽく露伴が言ったが、

「いやちょうど帰ろうと思ってたところだったんですよ。そしたらタイミング良く露伴先生がドアを開けたんで...タルトも二つ買っちゃいましたしね!せっかく並んで買ったんですから、食べて帰りたいと思っただけです!」

とななしは言い返し(になってるか分からないが)を試みた。
そういうと、露伴はすこしうつむいて黙り込んでしまった。

.....さっきからどうも様子がおかしい。いつもなら巧みに言い返してくるはずなのに。
ななしはそう思うと、そもそもなぜ家にいるのにすぐ呼び鈴に反応しなかったのか、という先ほどの出来事を思い出した。

「それはそうと露伴先生、なんで家にいるのにすぐに呼び鈴に反応しなかったんですか?」

単刀直入に聞いてみる。

「えっ、い、いやちょっと立て込んでてな....」

露伴は一瞬顔を上げたが、またすぐうつむいて黙ってしまった。
......これはおかしい。いつもの露伴先生じゃあない。なにかあったのか。

「先生!なにかあったんですか?あんなクソ寒い中仮にも女子高生一人待たせておいて立て込んでたはないんじゃあないですかね!」

今度は良心に響く言葉を織り交ぜながら聞いてみた。
するとさすがの露伴もちょっと罪悪感は感じたようで、舌打ちをはさんでから「そ、そこまで言うなら教えてやるよ!」と言ってソファから立ち上がり、キッチンのほうに歩いて行ってしまった。
...露伴先生はなぜ黙りこくる必要があったのだろうとか、なぜかちょっと顔が赤かったとか、考えれば考えるほど疑問が出てきた。
が、とりあえずタルトと紅茶とともに待っているとなにか持った露伴がやってきた。
そしてその露伴の持っているものがはっきり見えた途端、「あっ」と思わずななしは声を上げた。

「ろ、露伴先生、それって...」

ななしは露伴が持ってきたもの....ケーキを指さしながらつぶやいた。

「い、いやちょっと、ちょっと暇だったから作ってみただけだからな!そしてさっきはちょっと手が離せなかったんだ、悪かったよ!」

そう必死の言い訳をする露伴とタルトをななしは見比べていた。
.....そういうことか。

たぶん、ちょっと自惚れかもしれないけど、露伴先生は私が今日...バレンタインも来ると思って、ケーキをわざわざ作ってくれていたのだろう。
そこに思った通り私が来たわけだが、その手には高級タルトがあった...というわけか。
だから言いだせなくてうつむいたり黙っていたりしたんだな、とななしはニヤッとしてしまった。

「な、何笑ってるんだ!」

露伴はそう言いつつ、ケーキを台所に戻そうと振り返ってしまった。

「あ!露伴先生!待ってくださいよ!」

そう言ってななしは露伴を呼び止めた。

「せ、せっかく露伴先生が作ってくれたんですからそっちのケーキを食べましょうよ!」

「......そのタルト、並んで買ったんだろう?いいのか?」

「あたりまえじゃあないですか!私、露伴先生のケーキのほうが食べたいです」

ななしがそう言い切ってしまうと露伴の顔はさっきより赤みを帯びたように見えた。

「そ、そこまで言うなら仕方がないな!」

露伴がソファの前に置いてある机の上にケーキをドンッと置く。
....素直じゃないなあ。

「あ、でもこのタルトはバレンタインってことで露伴先生にあげますよ!」

とななしがタルトの箱を露伴に渡そうとすると、露骨にいやそうな顔をされた。
その顔にひるみ、ななしは箱を持ち上げた手を止めてしまった。

「....手作りには手作りで返すっていうのが礼儀なんじゃあないかな」

そうぽつりとつぶやいた露伴の顔はいつもみたいな嫌味たっぷりの顔ではなく、本心というか邪心はないように思えた。

「そ、そうですね!わかりま、した...」

できる範囲では頑張ってみます、とななしは不器用な自分を恨みつつ、返答した。

「ふんっ。まあ楽しみにしてるよ」

そういう露伴の顔はつい先ほどの赤い顔がうそのように、いつもの嫌味たっぷりな顔になっていた。
....まあ、このほうが落ち着くかな、なんてななしは考えながら露伴が作ってくれたケーキを一口ほおばった。


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2013 2/15 バレンタインがあまり関係ない!


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