ぐるぐる



 「花京院!一緒に帰ろうよ!」

そう言う彼女の目や仕草には全く邪念というか恋心なんていうものはなかった。
いや、たぶんそういう理念が頭にないのであろう。
 
「ああ、いいよ」

そんなことを考えつつ僕は二つ返事で了承した。




DIOとの戦いを終え、エジプトから帰ってきてから約二か月が経とうとしていた。
DIOと対峙した際死の危機から救ってくれたのは彼女...ななしだったといっても過言ではない(本人は否定しているけど)。
時を止められ無防備な僕の腹にDIOの強力なパンチが炸裂したが、ななしがスタンドを出して守っていてくれていたため九死に一生だったのである。
...まあそのためにななしはぼくより深い傷を負ってしまい、ちょっと死にかけていたのだが、今はこうやって生きていられているので神様(とななしの強靭な生命力)に感謝してもしきれない。
最低でも全治三か月と言われた大けがをわずか一か月足らずで完治させてしまった彼女には恐れ入った。ほんとに。

けがが完治して学校に通うようになってから、ほぼ毎日僕はななしと一緒に帰っている...というか僕の家に遊びに来ている。
恥ずかしながら友人と呼べる人が今まで生きてきて出来たことがなかった僕は、こうやって学校帰りに家で遊ぶというのがすごく憧れだった。
それは僕の両親も同じのようで、仮にも、仮にも息子が異性を連れてきているのに全く気にしていないようであった。

まあ家で遊ぶといっても、何もやましいことはない。やることはただ一つ...そう、ゲームだ。
約一か月前にスタートした僕とななしの壮絶なゲームバトルは今のところこちらの全勝である。
これでもか、というぐらいにハンデをつけているつもりなのだがまったく、自分で言うのも気が引けるけど、負ける気がしないのだ。
なので僕はななしにはたぶん根本的にゲームに向いていないのだと勝手に解釈することにしている。
でも当の本人はあまり勝敗には重きを置いていないようで、一応悔しがりはするものの、ゲームをすること自体を楽しんでいるようである。
ななし曰く「ゲーム中の白熱がたまらないんだよ!気の高ぶり!それこそがゲームの真髄でしょ花京院!」...らしい。まあわからなくもないけど、僕の記憶によるとそんなに白熱するような接戦はしたことがないように思うよ、というのは心にしまっておいた。

「花京院!聞いてる?」
 
その言葉に僕はハッと彼女のほうを見た。どうやら自分の世界に浸っていたようである。

「あっ、その顔は聞いてなかったな!もー!!」

そう言ってななしは一瞬ふくれっ面になるがすぐに「今日はマリオだからね!!」なんてニコニコ笑顔を見せている。彼女は表情がころころ変わるので見ていると面白い。

「いいけど、今日こそは勝てる見込みはあるのかい?」

「ううん、全然!」

...まあ分かっていたことだけどこんなふうにここまではっきり返されるとかえって気持ちいいものがある。

ここでふと僕の頭に、なぜななしは毎日僕と一緒に帰ってゲームをしているのか、という疑問が浮かんだ。

彼女はゲームの白熱が好き、と言っていた。それならば女友達とやれば良いのではないか?
ななしに友達がいないわけではない...というかたぶん多い気がする。中にはゲームの一つや二つ持っている子もいるんじゃあないだろうか。
それにななしを見る限り、恋心とかそんなんではない。純粋に楽しんでいるだけだ。なぜぼくなのだろう?
急に湧いて出たそんなくだらない疑問はぐるぐると僕の頭の中を回っていた。

「おい花京院!君は一体何回ボーっとしたら気が済むんだね!!」

また、呼びかけられる。人の気も知らないで、なんて勝手に恨めしく思ったが、その恨めしさから、これまたふと、たまには彼女を見習って素直に意見をぶつけようと思いたった。
そしてななしのほうを向いて僕は

「あのさ、なんでななしは毎日僕と一緒に帰って、勝てる見込みもないゲームをしているの?」

と一息に言いきった。
そんな僕の言葉を全く予想していなかったのか、彼女はきょとんとして、吃驚しているのが手に取るようにわかった。
僕は言ってしまってから、これではもう遊びたくないとっているようなものだと気づき後悔した。が、言ってしまった言葉は取り戻せないためななしの返答を無言で待っていた。
ななしはそんな僕をまっすぐ見つめたまま口を開いた。
         
「え、そんなの花京院と遊ぶのが楽しいからに決まってるじゃん!」

「え?」

予想もしていなかった言葉に自分の顔が熱くなってくるのがわかった。

「いやー、花京院には旅の間お世話になったからね!うんうん、なんていうの?その分...ちょっとくさいセリフだけど、きずなが深まったっていうか?」

ななしは僕の言葉の深い意味までは捉えられなかったようでとりあえず安心したが、仮にも思春期の女子高生が異性にここまでおおっぴろげに言えるものであるのか、とちょっと度肝を抜かれた。

「そ、そうなのか!はは、なんか変なことを聞いてすまなかった」

なんて冷静を装って言ってみたが、どうして聞いた僕のほうがドキドキして顔を赤らめているのだろう。

..........これはもしかしてあれなのか、あれなのか、.....?

そんなの友達もろくにできたことがない僕に分かるはずもなく、ただまた1人で悩むほかなかった。
そしてそんな僕を彼女は不満そうに見つめて「まただんまりするのー!?」なんて言っている気がするがよく聞こえない。
ああ、多分今耳まで真っ赤だろうな。

彼女は僕に対する恋愛感情がないとか考えていたけど、そんなことを考えること自体僕がななしを好きだって言うのを認めているようなものではないかとか、大切な"友達"にこのことを言ってしまったらどうなるのだろうか、勘違いだと笑われるだろうか、とかそんなことがまた頭をぐるぐるを回る。

そんな気持ちもいざ知らず、彼女は「はやくー!!」と僕をゲームへ急かしている。
.....とりあえず、ななしが僕にゲームで一勝でもできたらちょっと打ち明けてみようかな、なんていう結論に落ち着いた。
それはきっと、まだまだ先の話であろう。それまではこのほぼ結論が出かかっている気持ちについて、よく考えてみよう。

僕はそう思って彼女に言われるがまま足を急がせるのであった。


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2013 2/11 花京院生存設定 花京院にはほんわか雰囲気が似合う気がします


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