「メリークリスマス、なまえ。この美しい聖夜に心から誓おう、俺様がこれから先もお前を強く愛し続けることをな。…ほら、受け取れ」
「…ええええええ!?」
クリスマス。
都内にある某豪邸。
「どうしたデカい声出して。その指輪、気に入らなかったか」
「いやいや違う違う違う!!」
私はぶんぶんと首を振って、目の前に座る愛しのキングに全力で否定を示した。
彼は中学生。
私も同じく中学生。
関係は至って、ごく普通の恋人同士。
強いて他と違うところを挙げるとすれば、
「…これは一体何事なのおおおおおおお!!」
その彼が、"ちょっと"お金持ちのとこの息子だってこと。
「何をそんなに驚いてんだ、アーン?」
「だ、だってこれ…」
「お前が喜びそうだと思ったものを、ただ好き勝手に俺様が買って来ただけの話だ」
至極何でもないことのようにそう言い放ったその人。
名前を跡部景吾といった。
唖然としている私に優雅に微笑みかけてくる。
その顔がなんともかっこよくて、思わず照れくさくなって目を逸らす。
そして私は再び自分の手元に視線をやり、改めて感嘆の溜息を漏らした。
「だって、こんな…こんなにすごいもの…」
たった今彼から渡されたのは、海外ブランドのめちゃくちゃ可愛いリング。
しかももの凄く高価で、恋人のいる女子なら誰もがプレゼントに憧れる超人気アイテムだった。
「何…俺様にかかればこんなアクセサリーの1つや2つ、大した問題じゃねーんだよ」
「ん…んー…」
多分見たところ景吾は、この女の子ブランドの知名度とか凄さとか全然わかってない。
わかってないのにこのどや加減。
…悪い意味じゃなく世間知らずのお坊ちゃまだと思った。
「結局金で買えるって点でどの指輪も同じだろ?」みたいな感じが。
そんなとこが好きだった。
「…本当にありがとう。私こんな幸せなクリスマス、初めて!」
「フッ。礼には及ばねーよ」
「いやめちゃくちゃ及ぶよ!及びすぎて申し訳ないぐらい感謝してるよ!!」
「んなことねーっての。だがなまえがそう言ってくれるだけで満足だ」
「…へへ」
…それからもう1つ。
私はこのリングを受け取った後、ものすごく恥ずかしくなった。
だって。
「あ…あのね、景吾」
「ん?どうした」
「実は私からも…景吾にプレゼントがあるの」
「…ほう」
私のそのプレゼント。
「こっ、これ…でもあの、」
「…開けてもいいか?」
「あ…うん」
自分としてはすっごく悩んで選んで、結構奮発して買ったつもりだったんだけど。
君にもらったリングに比べたら、あまりにも価値が劣ってるように思えたから。
…でも、その時。
「お」
「…え?」
彼がラッピングの中身を確認して、声を出した。
袋にゆっくり手を入れて、それをそーっと取り出す。
そして、
「……格好いいな」
びっくりして口が開いたままの私に。
いつもの数十倍かっこいい笑顔で、そう言った。
…ほんと?
「いやいや…気遣ってくれなくていいよ!そんなの景吾からしたらすっごい安物だと思うし、それに…」
慌てて取り繕う。
でも景吾は黙って首を振って、それからもう1度私に笑いかけた。
「普段から気品溢れて止まない俺様にピッタリの、立派なペンダントじゃねーの。気に入ったぜ。…ありがとう」
「……!!」
…なんかその顔見たらすぐに、気にしてた内容のつまらなさを思い知った。
そう。
私が彼にあげたのは、すごく小さいけど本物の宝石がついた"K"の文字の男性用ペンダント。
さっきまでめちゃくちゃ自信なかったのが嘘みたいに、心が晴れた。
「…ほら、なまえ」
「なに?」
「こっちへ来い。お前にコレを付けて欲しいんだ」
気がつくと彼は着ていたYシャツの前を大きく開けていて。
私にペンダントを差し出すと、もっと近くに寄るよう命じた。
「う…うん」
ゆっくりと手招きされたその時、ごくりと生唾を飲み込んだのはここだけの秘密。
…別に襟元から覗く綺麗な鎖骨が眩しかったからとか、そんなんじゃない。
「…はい、景吾。ハッピーメリークr」
私はそう言って、チェーンの金具を彼の後ろで留めようとした。
すると、
「!!」
突然こっちを振り返った景吾が不意をつき、私の唇にキス。
「…お前はどうなんだ。今年のクリスマスはハッピーだったか、なまえ?」
小さく首をかしげて、面白そうに尋ねてきた。
なぜこのタイミングで…いや、よくあることだ。
私はいつもこうやって、彼に照れさせられっぱなしなんだから。
「も…もちろん」
顔が真っ赤になるのを必死でこらえて、おずおずと答えると。
「ならよかった。…俺も、」
こんなにハッピーで、幸せなクリスマスは初めてだ。
彼はそう言って笑った。
君の鎖骨の真ん中地点は
(私が真心込めて贈った)
(イニシャルKの特等席っ!)