「千里ぃー。まだ着かんと?」

「うー…あともうちょっとたい」

「またそれね?…千里の"ちょっと"はいっちょんアテにならんとよ!」


…それもそのはずだった。

千里の"ちょっと"歩く、はどうしようもなく。
私の"たくさん"歩く、なのだから。

身長194センチの彼と、ギリギリ150に満たない私。
その体格差はおおよそ50センチ。
いつも手を繋いで歩いても、いつの間にか私が彼に引っぱられる形になってしまう。

だって合わない。
絶望的に、歩幅が。

普段彼の1歩が私の2歩。
それが時間の経過とともに、彼の1歩が私の3歩・4歩・5歩…となる不思議。

つまり最終的には、私が彼と並んで歩くために小走りになってしまっているということだった。
その微妙に続くマラソン状態がしんどいのなんの。


「つ…疲れた…」

「頑張りなっせ、なまえ!そろそろ見えてくるはずたい」

「……」


彼は少しだけすまなそうに笑い、大きな手で私の頭を撫でた。
クリスマスの街はいつも以上に人で賑わっていて歩きにくいため、短気な私は今少々機嫌が悪い。

だけど千里のその笑顔には弱いのだ。

もうちょっと駄々をこねてやりたかったけど、何も言い返せなかった。
くそう…。

そしてそのまま彼に連れられ、さらに歩くこと5分。


「おっ、やっと着いたばい!なまえ、あれあれ!!」


ようやく立ち止まった千里。
興奮気味に示された先を見ると、


「………」


…いや、見ることはできなかった。
すでに目の前にできていた人だかりに隠れて、私には正面にあるものが何なのか全く分からなかったから。


「長いこと歩かせてすまんね、なまえ…俺、なまえとどうしてもここに来たかったとよ」


大人よりデカい図体して、子供より可愛くあどけなく笑ってみせるあなた。
だけど残念。
私のこの身長じゃ、あなたが今嬉しそうに指差しているものは。


「…千里、」


うち背ば小さかけん、ここからじゃ何も見えなかよ。
と告げようとした。

…だけどその前に、


「なまえ…そげなとこでちゃんと見えんね?」

「え」


そう言うが早いか。


「…うわっ!」

「ほれ。こっちのが見えるとよ」


突然彼は私をお姫様抱っこすると、


「ちょ…千里!?」


私の身体を、正面の景色が見やすい高さへひょいっと持ち上げた。

い、いきなり何すると!
降ろさんね!
そう言おうとしたのも思わず引っ込む。

だって前を見るとそこは、


「わ…ぁ」


…まさに光のなんとか。

光の森?
光の海?

あまり上手に例える言葉が見つからなかったけど、とにかくすごかった。
何十色何万個もの小さな電球が光り輝いて、ツリーやお城や動物たちのオブジェを色鮮やかにライトアップさせている。

そう、彼が私のために見せたかったもの。
それはクリスマス定番の、イルミネーションイベントだったのだ。

…正直こういうのは、今までにも何回か見たことがあった。
だけど、ここであえてベタな言い方をしておくとすれば。


「普段は何でもなかこつでも…千里と2人で見れたけん、こぎゃん綺麗に私の目に映るとね」

「はは、そいは嬉しかー!」


彼は私の言葉を聞いて、私の大好きな"笑顔"を見せた。
つられて笑ってしまう。


…ああ。


「ありがと、千里…好いとうよ」


こんなに大好きなのに、同じ幅で歩くことができない。
そんな小さな私の足を。



「むぞらしかねー、急に素直んなってどげんしたと?」

「…別にいつも通りたい」

「そいね?」


易々と掬い上げて抱きかかえてくれる大きなあなたがいるなら。


「ま、言うまでもなかばってん俺も好いとうよ。……なまえ」

「…えへへ」


なんかもう、そいだけで全部よかね。


大は小を庇って愛でる
(見物客の視線がイルミネーションから)
(大男に高々と掲げられた小さな少女へと)



「しっかし軽かねーなまえ!このまま担いでも余裕で帰れるばい」

「な…もうよかけん降ろして千里!うちさっきから見せ物みたいになっとると!」








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