今からやったーに聞いてほしい話があるさー。
そう言おうとして開きかけた口を、


「そういや去年の25日は生きた心地がしなかったなぁ…」


誰に対してというわけでもなく、突然ぼそりと呟いた裕次郎によって邪魔された。


じゅんに間ぁ悪い男だばぁ…
あとでどんな思いしても俺は責任取んねーぞ。


「ああ…あれは確か部活の帰りでしたね」


しかも永四郎が話に乗っかってきた。
余計厄介なことになりそうだ。


「そうそう。わったー誰もクリスマス一緒に過ごす相手いねぇからって、家に直帰すんの嫌でなー。暇潰しにフラッと繁華街に出たのが…今思えば迂闊だったんどー」

「ええ。あんな惨めな思い、俺はもう2度と御免ですよ」

「わんもさー」


「……」


このままじゃマズい。


「凛…どうする?」


隣にいたなまえが俺の顔を心配そうに見上げた。


「…なんくるないさー」


とりあえずそう答えたけど、本当は全然何ともなんねぇ。




つまりこういうことなのだ。


俺とテニス部マネージャーのなまえは、つい1週間前に付き合い始めたばかり。
そして今日は12月25日、俗にいうクリスマス。

2人で街に出てイルミネーションイベントを見に行くため、今日の夜練を休むこと――
そもそも俺らが恋人同士になったことを部員みんなに伝えなければならない。


だけど。

なぜか最悪のタイミングで裕次郎と永四郎が彼女がいない虚しさを語り出したせいで、そのことを切り出しにくくなってしまった。


…さて、どうしようか。


すると、


「凛、やばいさー…もうイベント開始の30分前!」

「うお、じゅんにか!やっべーやっし」


なまえが俺のジャージの裾を引っ張った。


こうしちゃいられない。
今から着替えて学校出て、15分後のバスに乗れればなんとか…ってそんな計算してる場合じゃねぇ!


「裕次郎、永四郎!ちょっとわったーの話聞いてくれ!!」

「結局友情なんて意味ないんばぁよ…所詮世の中金と愛さー」

「そもそもクリスマスに街をうろつくカップルというものは一種の公害で……ん、何ですか平古場クン」


「……」

このちょっとの間に何があったのか。
思い切って話しかけてみると、奴らはいつもと見違えるほど陰気臭い表情をしていた。


しかも一瞬聞こえた話の内容が尋常じゃなく卑屈だ。


やっぱ言いたくねーやー…
こんな2人相手に堂々とリア充宣言なんて出来るかよ…


「あーいや、その…」

「てか凛、やー最近よくなまえとセットだよな」

『…え』


裕次郎が死んだ目で俺となまえを交互に見た。
や…やめれ、負のオーラが伝染る。


「確かに。元々仲は良かったですが、この頃ヤケにいい雰囲気のような気がしますね」


永四郎が同じ目で俺だけを睨んだ。
だからやめれって!


「ふ…2人とも、いったん聞いて?実はわったー、先週から…」

『まさか』


そして。
なまえの言葉を遮り、愛すべきワンコと愛のゴーヤ戦士はついに核心をついた。


「まさかやったー…実は付き合ってるとか言い出す気じゃないんどー?」

「まさか君たち…そのためにこの後の夜練、デートを理由に休むなんてつもりじゃないでしょうね」

『!!』


…ああ。
もう仕方がない。


「…はは」

「ははははは」


奴らの質問に、イエスともノーとも答えなかった俺たちは。
その代わりに口から、同時に乾いた笑いを漏らした。


「ぬっ…ぬーがやその引きつったちら!やったーもわったーを裏切って公害に成り下がるつもりばぁ!?」


裕次郎がそう言って食ってかかってきたけど、何も言わない。

ただ何も言わずに、2人で笑った。
口角を無理やり上げて目は泳がせたまま、2人で苦笑。


『…はははははは』


それから。

互いの手をしっかり握りしめると、一瞬の隙を見てその場から全速力で逃げ出した。


「あっ…!待てこら凛!なまえーっ!!」

「平古場クンみょうじクン、戻りなさい!でないとゴーヤ食わすよ!!」

「待てと言われて待つふらーはおらんさー!!」


別に恋人がいない奴が悪いとは言わねぇ。

ただな。
それをひがむことしかできんやったーに気を遣わなきゃなんねー筋合い、わったーにはねーんだよ!


「はいでぇーリア充ー!」

『わっさいびーん!!』


その笑み、苦々しさと同情から
(その後2人で見たイルミネーション)
(あったーにも見せてやりたかったさー!)









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