見学


ゴムとすこし汗と埃の匂い、キュッキュと鳴る床。
勇くんとあきちゃんに連れられ、私は体育館に来ていた。

「ちわーっす!」
「ちわー」
今は自主練の時間のようだ。ミニゲームをしている人たちもいれば、休んだりストレッチをしてる人もいる。二人は入り口から中に居る人物たちに挨拶をする。
くるりと振り向いたそいつ、及川はこちらを見るなりパッと嬉しそうに笑顔を浮かべた。

「金田一!国見ちゃん!久しぶり〜二人とも育ったね〜!!岩ちゃーん!」
「おー二人ともよく来たな。元気にしてたか?」
及川が岩泉さんを呼ぶと岩泉さんも二人に声をかける。と、はたりとこちらに目を向けた。
「……どっちかの彼女さんか?」
「エッ」

彼女!?岩泉に突然声をかけられたことと勘違いされていることに混乱し言葉に詰まる。

「ちっちがいますよ!俺のクラスメイトです!今日話したらバレー見るの好きらしくて連れてきたんです!」
勇くんも慌てながら説明をすると納得したように肩を竦めた岩泉さんと…………にやにやしながらすげぇこっち見てくる及川。来るなよ。

「エーなに金田一ってばかわいい女の子の友達なんて作っちゃう子だっけ〜?きみ、名前は?」
「…………清河です」
「清河ちゃんね!かわいい〜」
「アハハハありがとうございますー!」

目をめっちゃ必死に逸らしながら及川の質問に答えて困っていたら岩泉さんが及川に声をかける。
「オイクソ川、こいつ困ってんだろ」
「えーそんなことないよね?」
「いやめっちゃ困ってます…」

にこにこと綺麗なお顔で笑う及川はそら女子なら喜ばしいであろう。しかし私はモテ男が苦手なのだ。
困っていると素直に答えれば及川は笑顔のままピシリと固まり、岩泉さんと勇くんとあきちゃんはブフッと噴き出した。

「わっはっはっ!ザマァ及川!」
「瑠璃…っ失礼だろおま……ブフッ…!」
「や、やめろ国見……フフッ…っ」
「ちょっとみんな失礼じゃない!?清河ちゃんもこんなイケメンにさぁ!!」

みんなめっちゃ楽しそうだな、みんなが笑顔で私幸せ。及川ぎゃんぎゃん喚いてるけど。
「いえ、困っているのは本当ですし。あんまり話し掛けないでいただけます?」
ファンに見られるのも面倒だし。女子って怖いんですよ。

「お前いいな、清河だっけか?俺は岩泉一。ここの副主将やってる。んでこっちが及川な。こんなグズでも一応主将やってる」
「清河瑠璃です、よろしくお願いいたします岩泉さん。及川さんはおモテになるんですね、ぜひよろしくお願いしたくない人種ですね!」
「なんで!!」
「うっせーな初対面の人間に理由とか話すわけねーだろクソ川」

しまった、心に留めておけなかった。やばい一応先輩だよこの人!!
「お、おい瑠璃……」
「……すみませんでした、一応先輩に向かって」
「一応ってなに!?やだよ敬意のないその先輩扱い!!」
またぎゃんぎゃん喚く及川…さん(先輩だし及川さんって呼ぼう)をげんなりしながら眺めてるとまた岩泉さんは大笑いしていた。

「お前ほんっとにおもしれぇな!!まぁ見るの好きなんだったらゆっくり見てけよ、及川のファンとかうるせーけど。金田一と国見も入るんだししっかり見とけ」
「うス!」
「はい」
「はい!ぜひ見させてください!」
「あっでも清河、暗くなる前には帰れよ。あぶねーし」

……!!!なんだこの男前!!そういう心配してくれるんですか!!ズキュンてきた!!
「〜〜っ大丈夫です家近いですし!もし怖くなったら勇くんとあきちゃんに送ってもらいます!」
「勇くん…に…あきちゃん……?まさか金田一と国見ちゃんのこと?」
「ああ、こいつらか……よかったなお前ら、もう友達できて」
ぽかんとする及川さんの隣でふっと優しく二人を先輩らしい笑顔で見遣った岩泉さんは全世界を凌駕する男前さんでした。



「花巻ナイスキー!」

「岩泉もう一本いけ!」

そんなわけで私たちは並んで(なぜか私が真ん中)体育館の隅でバレー部を見学しています。いいなぁ楽しそう。キツそうだけどこの人たちいい人ばかりだろうし楽しいしやりがいありそうだな。こんなんでも女子だから入部できないのが残念だ。

「楽しそうだなぁ…」
「お、やっぱり好きなんだな、バレー」
「いやほんとクラブとか部活とかでやったことないしプレーとかルールもド素人だよ。でも楽しそう」
「マネージャーとか希望しないの?」
「マネージャーかぁ……いや及川さんに絡みたくねぇなぁ…及川さん自体よりファンがめんどくさそう…」

女の子って怖いからまた反感買いそうだし。また居場所なくす学生生活とか勘弁して欲しいわぁ…。
実際さすがに以前みたいにやられっぱなしってことはないけどやはりそんなことにエネルギーを使いたくないじゃないか。

「俺、瑠璃が一緒にいてくれたら嬉しいけどな。落ち着くし」
「あ?」
「ヤンキーみたいな返事するなよ。嬉しいよな、金田一」
「エッ俺!?お、おう…!」
「い、いやでも青城って現時点でもマネージャーいないんでしょ?なのに素人の私にとか向こうが無理じゃない?」
慌てて理由をつけるとフム、と少し思案するような顔をしたあきちゃんが、思い付いたようにするりと顔をあげた。

「岩泉さん、少し大丈夫ですか?」
「おー?どした?」
「瑠璃、この通りバレー見るの好きらしいんですけどマネージャーにとか希望できませんかね?」
「清河をか?」
「はい。知識としては素人らしいですけど、どうせ雑用は一年がやることも多いでしょうし、俺たちで教えていきますんで」
「い、いやでも今マネージャーさん居ないんですし素人なんて一年生の負担を考えるとやっぱりご迷惑ですよね…?」
「駄目ですか、岩泉さん」

あ、あきちゃん……!!そんなに頼んでもらわなくていいよ大丈夫だよ嬉しいけど…!
嬉しいやら申し訳ないやら恥ずかしいやら色々な感情を感じたが言葉にならず、あきちゃんのブレザーの裾をかるく握った。するとあきちゃんはこちらを見下ろしゆるくにこりと微笑んだ。かわいい。かわいいけどちげぇよ!!

「あー、お前らがそう言うならいいと思うぞ。素人でもマネージャー居て助かることは確かだろ。そもそもマネージャー居なかったのはクソ川目的の奴等ばかりでまともに仕事しなかったからだし」
「まじすか」
あっさりOK出ちゃいましたよ。まじかよ。つか及川さん目的とか本当にあるのか。及川さんもう顔面普通程度に整形した方がいいんじゃないですか?

「よかったな、瑠璃」
「俺たちと頑張ろうな、よろしくな瑠璃!」
「あ、ありがとう!入部まだだけど!」

なんだか青春を出来そうです。





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