気持ち
自宅に帰り着き、部屋に入るとバッグをドサリと落とし、そのままベッドに倒れ込む。
……あれは、どういう意味だろうか?
「意識して欲しいって、そういうこと…?」
あんな目で、声で言われたら自惚れも確信に近くなる。
熱の宿した視線に射抜かれてしまうかのように、身体中がカッと火照った。あぁ、えっと、なんだこれ、好きすぎじゃないか。
いつの間に私はこんなにはじめさんに溺れてしまったんだ。
恋はするものではなく落ちるもの、と誰かが言っていたが、まさにそれだ。ドポン、と落ちて私は今溺れている最中だ。
私の片想いだけなら、閉じ込めておくのだけれど、そうしたいのだけれど、
「あの言葉はなぁ……」
もし、もし、あの言葉がそういうことだとすれば、自惚れかもしれないが、両想いということになってしまう。きっとどちらかが溢せば、そういう関係になるのだろう。そうなると、私はどうなるのだろうか。
そもそもは関わるはずの無かった存在だったのに、そんな親密になってしまって、突然この混じってしまった世界が、また突然分離してしまったら、この想いは、私という存在はみんなにどう影響してしまうんだろうか。
「……って、告白されたわけじゃないんだから、こんなに考えても仕方ないけど。素直に先輩としてかもしれないし。うん、はじめさんならありえる」
ムクリと起き上がり、制服を脱いでそのままシャワーで考えていたことを流そうと浴室へ向かった。
晩御飯は何にしようかなぁと考えていたが、ふと思い出した。
「及川さんが言ってた"宿題"、答え出さなきゃなのか」
「は?」
「いやだから、清河に意識して欲しいって言っちまって……」
「は?岩ちゃんなんなの?バカなの?それ告白してるようなもんじゃん」
俺は今、及川の部屋で及川に今日の事を相談していた(不本意だが)。
「そこまで言ったのに、そのまま帰しちゃったんだ?」
「そりゃそうだろ……」
「ふぅん?」
及川はチラリと視線を巡らせ思案するように返事をすると、また口を開いた。
「今日電話でね、清河ちゃんに『岩ちゃんに手を出されなかったらどういう意味か考えてみて』って言ったの」
「はっ!?何余計な事を」
「まぁまぁ。で、今日そこまでしか出来てない岩ちゃんを見て、清河ちゃんはどう思ったか、だよ」
こいつがなにがどうしたくてそんなことを言い出したのかわからないが、とりあえず黙って聞くことにした。こればかりは恋愛なんてものをしてこなかった俺だけではどうにもならない。
「清河ちゃんってさ、ぶっちゃけ男が寄ってくるときってエッチなことを目的にされてたわけだったじゃん?」
「……そうだな」
「岩ちゃんはそれをすぐにしないって分かったら清河ちゃん、初めてそれを実感したとき、初めて"好きになってもらえる"事に喜びを感じるんじゃないかなーって」
だから岩ちゃん、岩ちゃんは真っ直ぐ、清河ちゃんを守ってあげて。
及川はそう言うとそろそろ飯だからとへらりと笑いながら帰りを促してきた。突然来てすまなかったとちょっと思ってる。
俺は、清河を守りたい。その反面、俺だけがめちゃくちゃに乱せたらいいのにと汚いことも思ってる。俺も男という生き物だ、もちろん好きな女を抱きたいなんて考えてしまう。だが、アイツを傷付けたくはない。
守るということが出来るのはそれは恋人という立場が一番だ。だが、好きな女が恋人になって目の前に居て、俺はいつまでも我慢出来るのだろうか?
「全部、俺のモンに出来たらいいんだけどな」
ポツリと口から溢れた自分の声は、清河を想い少し掠れていた。
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