知ってしまった



うーん、はじめさんが男前ってことしかわからない。
タルトをもぐもぐしながら考えてはみるがやはりわからなかった。しかしタルト美味しかったなぁ。

「清河、口のとこついてんぞ」
「えっ」

まじか!なんてベタなことを……でもこれよくやらかすんだよね。なんでだよ!
思いながらべろりと口の横を舐めてみると、なるほどタルトの生地が付いてた。それを感じながらじわじわと恥ずかしさが込み上げてくる。

「すみません、これたまにやってしまうんです。幼児みたいでお恥ずかしい……」

苦笑いで堪えながらはじめさんを見ると、はじめさんはぴしりと固まっていた。頬杖をついたまま口を半開きにして、こちらを見たまま固まっている。口元に食べかすつける上にそれを舐めて食べるとか食い意地張った奴だなって呆れられた感じ?イメージダウン?
イメージの再アップも考えたいが、とりあえずそんなにこっち見たままなのやめてくれないかな。さらに恥ずかしくなる。もうやだ、穴があったら入りたい。明日の部活まで出てきたくない。

「あの、はじめさん、」
「っわりぃ!その、清河は口ちっちぇえから口元に付けるんだろうな」
「!そ、そうなんです!口が小さいのが駄目なんです!」

やっと動き出したはじめさんに言われたのがそれだったのでもう食べかすのことは全部口のサイズのせいにする。救いの手をありがとうございます!

「………さっきの」
「へ?」
「及川との電話、なんだったんだ?」

突然不安げな目で訪ねてきたはじめさんは声も控えめで、いつもと違うそれにどくりと胸が鳴った。

「えーっと、よくわからないこと言われました。及川さんは国語勉強するべきですね!」
「……そうか」

そこで途切れた会話。気まずい。もうちょい上手い返し方あるだろ私!

ん?なんではじめさんに秘密にしといてねって言われたわけでもないのに、今秘密にしたんだろう。
知られたくなかった?何を?"宿題"を?はじめさんとデートしてるって言われたことを?なんで?別にただの先輩と後輩ではないか。笑いのネタになるかもしれない。はじめさんがいつも通り「及川の野郎勝手なこと言いやがって」って溢すかもしれない。
それでも、言えなかったのだ。なんでだ?

「そろそろ帰るか」
「え、あ、はい」

伝票を取ろうとすると、先にはじめさんに取られてしまい、すたすたとレジに向かってしまった。
急いで鞄を持ちそれに追い付き、財布からお金を出す。

「お会計は別々にされますか?」
「はい、お願いします」
「いや、一緒で良いっす」

店員と私がエッと目を見開いてるうちにトレーに全額分を乗せたはじめさんに、店員も会計を始める。
そしてありがとうございました、という声を背に、先にドアに近付いたかと思えば、開けてそのまま停止している。え、これは、まさか、私待機?
恐る恐るドアを通ると本日2度目のはじめさんの広い胸と接近する。かっこいい、かっこいいなぁ。

「あの、はじめさんお金」
「いいから、こういうときは先輩の奢りってことで」

財布を仕舞い、もう受け取ってくれる気も無さそうなので御言葉に甘えさせていただこう。

「………ごちそうさまでした」
「どういたしまして」

お礼を伝えるとそうやってふっと、まるで自分のことのように優しく笑うから。また大きく胸が跳ねる。

あぁ、もう、気付いてやるしかないのか。誤魔化す道具は、今ここに何もない。
いくらトラウマがあるからって、この感情を知らないわけじゃない。

けれど、駄目だ。干渉しすぎるのは、きっと駄目だ。

自覚してしまったそれを飲み込み、優しく笑うはじめさんの隣に並んだ。






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