なんやかんや男子ですから



「うおおお……やっと洗濯終わった……」

心地よい日差しに照らされる干したばかりの洗濯物たちを眺め、息を吐く。よし、次はドリンク作ろう。あとでミニゲームやるって言ってたから早く戻ってスコアつけながら様子見ないとなぁ。

「清河」
「あれ、矢巾さん」

ドリンクを作り始めたところで矢巾さんがやってきた。練習大丈夫なのかな?そう思っているのを察したのか矢巾さんが口を開いた。

「ミニゲームちょっと早くなりそうだから手伝って来いって言われたんだよ」
「えぇ!?先輩にお手伝いしてもらうなんて滅相もない!」
「金田一も国見もスパイク練してたし、あいつらにはしっかり活躍してもらわなきゃいけないから俺でいいんだよ」

宥めるように笑った矢巾さんは、ふわふわとしていて軽そうな(失礼だけど)見た目と違って、しっかりした先輩の顔だった。

「助かります……すみません」
「まー部活中に女子マネ接触できるなんて、他の男子だらけの部活からしたらかなり羨ましがられることだしな!」
自慢しちゃおーっとおどける矢巾さんは楽しそうで、それでも普段及川さんの後釜というプレッシャーと闘いながら練習しているのだから、この人は相当逞しいと思う。

私が粉末を入れたボトルを手に取ると、水を入れてジャッカジャッカと振ってくれるので私は粉末を入れることに専念することにした。一人一人でも結構な量飲む為、その分準備も侮れない。
普通に部員に渡すボトルで出来上がったあと、予備として2Lペットボトルにも数本作っておく。それらを籠に入れそのままよいしょ、と持ち上げると矢巾さんは驚いた目でこちらを見た。

「なに持ってんだ。目の前に頼れる先輩が居るんだから任せろっての!」
矢巾さんはそう言うとはんば無理矢理籠を奪った。ひょいと持ち上げる姿に、やはりふわふわしていてかわいい系なのにしっかり男性だなと改めて感じた。

「あ、ありがとうございます!」
「ってかやっぱり重いなこれ……こんなんいっつも一人で持ってんのか?」
「私のお仕事ですので!」

重いけど持ち方のコツを掴むとなんとかなるものだ。仕事してた頃も荷卸しとかは結構していたから、こういった仕事は慣れている。ドリンクを持たれてしまったため、私は残ったドリンクの粉末の袋とボトルを拭く用のタオルを持ち、矢巾さんと体育館に向かいながら話をする。

「そんなほっそい腕で……誰か暇そうなの引っ張ってきていいんだからな?」
「ふふ、矢巾さん意外と心配性ですね!ありがとうございます」
「茶化してんじゃねぇぞ」

矢巾さんは先輩ながらも適度に軽口を使えて面白い。及川さんもフランクだが、あの人は性格の悪さがわかるし、圧倒的なオーラを纏っていて少しだけ怖い。
矢巾さん、こういうところはいいチームワークを作れそうだ。及川さんの後釜に不安を感じなくても、及川さんとはまた違ういいセッターになるだろうな。

「これこの辺で大丈夫?」
「はい、ありがとうございます!助かりました!」
「いいから、ほんと力仕事はもうちょい誰か頼っていいんだからな?」

結局体育館の中まで運んでくれた矢巾さんはぽんぽんと私の背中を軽く叩くとミニゲームの準備に向かっていった。




「清河」
ミニゲームのスコア見直しをしながらノートに記録してるとはじめさんがタオルを首に下げたままこちらにやってきた。

「はい、なんでしょ……うわわわわ」

目の前に来たと思ったら突然頭をわしゃわしゃとかき回してきた。両手でこんなにされるのは初めてで、頭が手の動きにならって激しく揺れる。

「な、なんですか突然……!」
「ぶっ……ボッサボサ」
「はじめさんがしたんでしょ!?」

わけのわからない行動にちょっと拗ねながら髪を元通りにしてると、先程の手が今度は壊れ物でも扱うかのように優しく優しく触れてきた。

「わりぃ、ちょっとムカついただけだ」
「はぁ…………ん!?私なんかしましたか!?」

優しく髪を向きに合わせるように戻しながら言うものだから聞き逃しそうになったがすごく恐ろしいこと言われたぞ!?

「そーだな、お前がチームメイトには無防備なのが悪いな」
「そ、んな……ことは……ないとおもいますけど…」

珍しく眉を下げて苦笑するはじめさんに、怒ってはいないのかなと察知する。が、やはりよくわからないし機嫌は良くなさそうだ。

「す……すみませんでした……?」
「おーそうだなー、じゃあちょっとお詫びしてもらおうか」
今度はそれはそれは楽しそうに口角を上げたはじめさんに肩が竦む。

「月曜日の放課後、俺と買い物付き合え」

「え……」
「あ?」
「あ、いえ、そんなことでよかったのかと…」

もっとキツいことやらされるのかと思ってたから少し安心である。しかしなんでまた買い物。

「ほら、来週末から合宿だろ。それに向けて色々買い足ししとかなきゃいけねーんだよ」
「それマネージャーの仕事じゃ……」
「俺が新しいサポーター欲しいからついでだ」

あぁもう、こうやって私を気負わせないようにサックリ言ってくるあたり男前!やっぱりかっこいいなぁこの人!

「それならよろこんでお受けします!」
「おう、期待してるぞマネージャー」
合宿かぁー。そろそろメニューも考えなきゃなぁ。と考えてると、ところで、とはじめさんが続けた。

「買い物付き合いに『そんなこと』ってなにさせられると思ってたんだ?」
「えっ」
「もっと無茶なこと言っても良かったのか?」

ニヤニヤとするはじめさんはもうすっかり機嫌はなおってるみたいで安心するが、こういう時の顔はとても男子高校生を感じる。かわいらしい。
よしよし、お姉さんが無茶なこと聞いとくだけ聞いとこうじゃないか。

「たとえばどんなのですか?」
「そうだな、」

フム、と一瞬思案したあとズイッと顔が近付いてきた。息が、耳に……っ!


「そのキレーな脚で膝枕とか?」


初めてはじめさんを突き飛ばしました。顔が熱い。茹で蛸みたいになってるのを自負している。元々顔色が出やすいのにこの人は!!

意外とすごく男子高校生じゃないか!!!
心臓うるさい!!
ドリンクを投げ付けて倉庫に走った。



でもあの言葉に、トラウマを呼び起こすことも嫌悪感を抱くこともないこともなかったな。







〜おまけ〜


真っ赤になった清河に逃げられたところで、少し離れたところで眺めていた松川が寄ってくる。

「……岩泉って意外と独占欲強いんだな…」
「んなことねーだろ」
「矢巾と仲良さそうなの見て勝手に嫉妬した上あーんな顔させて満足そうにしちゃってよく言うよ…」
「……拗ねた顔めっちゃかわいかったな」
「やっぱお前変態だわ」

なんでだ松川。





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