パパ



着信音を聞き目が覚める。スマートフォンを手繰り寄せると、今日は勇くんからお電話だった。
二人のモーニングコールは日によって変わっている。
しかし今日は土曜日の為、練習は平日より一時間ほど遅い。それなのにこんな早くからどうしたのだろうか。

「……もしもし、おはよう勇くん」
「おーおはよ。瑠璃起きたか?」
「うん、おきたー…」

もそもそと体を起こし、肌寒さに身震いする。

「えっ……おいっ国見…っ」
「?」

向こうでガサガサと物音と勇くんの慌てる声が聞こえる。そのあと聴こえてきたのはもう一人の友人の声だった。

「瑠璃おはよう」
「おはようあきちゃん。どうかした?」
「俺んとこ昨日から親居なくて朝飯食えなかったんだけど、瑠璃のとこで食わせてくれない?」
「は?」
「あと20分くらいで瑠璃のとこ着くと思うから」

じゃあよろしく、と一方的に切られたそれを呆然と眺める。えっあと20分?

「ふっざけんな!」
急いで朝ごはんの支度をする。私だけならトーストだけで良いけれど、部活やってる男子となると別だ。お米を洗って炊飯器で急速炊飯にかけて、鯖を解凍して冷蔵庫から適当に材料を引っ張り出して刻んで鍋で煮る。典型的だが、味噌汁とご飯と魚にしよう。サラダはないから野菜ジュースで我慢してもらうか。味噌を溶いて味噌汁が完成したところで鯖の解凍が終わった。

と、そのとき電話がかかってきた。今度はちゃんとあきちゃんからだ。

「瑠璃、着いたんだけど」
「あーもう着いたのか…部屋番入力してくれたら解錠するから」
番号を伝えると数秒後に部屋の呼び出し音が鳴り、解錠をする。あとは上がってきてもらうだけなんだが。

「うっわ私まだ着替えてなかった……」

パジャマはアウトだな。着けてないし。(なにをとはいわないが)
パジャマを急いで脱いでブラウスとスパッツとスカートを着る。ブラウスが朝の寒さでひやりとしていて少し鳥肌が立った。タイツは時間かかるからサイハイソックスでいいや。厚い分意外とタイツよりあったかいし、長いからよほどスカートを上げたりしなければ普通にタイツに見える。
ソックスを上げてるときにチャイムが鳴ったから、そのままドアを開ける。見慣れた眠たげな目と、純粋で真っ直ぐな目がこちらに向いた。

「なんだ、瑠璃パジャマじゃないの?」
「めっちゃ急いで着替えてたよ!急すぎてびっくりした!」
「最初はコンビニで買っていこうと思ったんだけど、外とか体育館で食べるの考えたら瑠璃に食わせてもらおうかなって」
「しかもその買うのも俺がたかられてた……」
「暴君かあきちゃんは……」

とりあえず上がって、と二人を上げる。形状としては1Kで、キッチンとの間に扉が無いからワンルームってことになってる。つまり、狭い。しかもこのデカイ二人が来たもんだから、なおのこと狭い。普段自分一人じゃこんなこと思わないのに……。

「……狭いけどとりあえずそこ座って。勇くんもちょっと食べる?」
「えっ!いいのか!?」
「いいよー」

先に麦茶を出しといて、さっき解凍が終わった鯖を蓋をして焼く。その間に炊きたてのご飯と味噌汁をよそってテーブルに置く。あと野菜ジュースも出しとこう。鯖がいい具合に焼けたらそれもよそって持っていって、よし。

「じゃあ、どうぞ」
「「いただきます!」」
ちゃんと手を合わせた二人は勢いよく食べ出した。朝だからしっかり食べないとだけどこのあと運動するから多すぎても駄目だ。このくらいでよかっただろうか。

「うまいぞ瑠璃!」
「ほんと?ありがとう」
「瑠璃はいいお嫁さんになれるね」
「ふぁ!?」

お、お嫁さん?
と思ったところでタキシード姿のはじめさんがぽんっと頭に浮かび思わず首を振る。なんではじめさんが!!

「そ、んなことないって!誰でも作れるし、一人暮らししてるからだよ多分!」
「でも作らないヤツも多いだろ。ちゃんと作ってるってすげぇな!」
「まぁ嫁に出すのは俺たちが認めた男にじゃないと駄目だけど」
「たぶん一生出来ないから安心してね、あきらパパ」

呆れながらジョークで呼ぶと、普段眠そうな目がきらりと光った。
「金田一!瑠璃が俺のことパパって!」
「おう!俺も呼ばれたい!」

なんなんだこいつら……。私は思わず頭を抱えたくなった。でも実際パパってよりは理想の兄達である。距離感と面倒見の良さが。どっちも中身は年下なんだけど。

テンション高く朝食を終えた二人と一緒に家を出て、学校への道を歩き始める。近いから余裕だ。

「なぁ、またパパって呼んで」
「俺のことも!」
「いやだよ!」
「「反抗期……!」」


最近この男友達二人がわかりません。



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