決着と少しの成長
日向くんの緊張も解れて変人コンビ覚醒のターンですよ。しかし初回は影山くんのトスが少し高くて空振りしたため、勇くんは無茶ぶりトスをしたのだと思ったようだが、その次である。変人コンビの連携。生で見るとこんなすごいのかと正直怯んでる。日向くんに警戒すれば今度は田中さんに打たれる。
しかしそれをコート内で見てるみんなは、怯んだのは一瞬で、すぐに冷静に対処をとろうとしていた。焦る後輩たちを支えるはじめさんかっこいいな…!と思ってると、はじめさんはこちらにもちらりと向いた。
凛々しい目に見つめられ、思わず身体が強張る。
「清河も、焦んなよ。練習試合なんだし、しっかり見とけ」
「っ…!?あっ、えっ、ハイ!」
……なんだこの人かっこよすぎないか!!!!
勇くんも頑張って点を取ってるが、やはりあの変人速攻には追い付けず、1セット取られてしまった。あぁ、奴が来る……。
「アララッ、1セット取られちゃったんですか!」
出たよOIKAWAさん…。途端に館内の女子が沸く。やかましいな、頭に響く。
ニッコリ笑う及川さんは「バッチリです!」と監督に言っていた。
っていうかいつ怪我したんだこの人。
「及川さんいつの間に怪我してたんですか」
「え〜?清河ちゃん心配してくれてる?嬉しいなぁ!」
「あとではじめさんにボッコボコにされてください」
「ごめんなさい!昨日の夜自主練してたらやっちゃった!」
やっぱり殴られといてください。主将なのになにやってんだまったく。社会版でいうと社長出席の交渉に社長が突然ぶっ倒れて欠席みたいなもんだよ。うん、自分で意味がわからない。
「ほらアップとってきてくださいって。ドリンク作っときますんで。すっごい濃いの」
「地味な嫌がらせ!普通のにしてね!?」
そうして準備をしてる間に烏野のマッチポイント。
ここで及川さん投下である。及川さんに代わりあきちゃんが戻ってきたからドリンクを渡す。
「あきちゃんお疲れさま」
「瑠璃、ありがと」
「かっこよかったよー」
素直に感想をのべるとちょっとムッとした顔をされる。なにか嫌だったんだろうか。
「そういうのいいから……」
「嫌だった?」
「そうじゃなくて……大して活躍してないし…それに……」
「それに?」
「……うん、なんでもない」
今度はふいっと目を反らした。反抗期か。遅めの反抗期なのか。もしかして、
「影山くんにも敵わなかったし、とか?」
「!」
「あ、えーと、同級生だったんだよね?」
「……うん。瑠璃にいいとこ、なんも見せれなかった」
「勇くんと揃って世界一かっこよかったからあんま気にしないの」
と、試合再開。ピンチサーバーの及川さんのサーブからだ。
月島くんを狙ったそれはものすごく痛そうな音を立てて飛んでいく。あれアザになりそう……。
「勝つ手段としては正しいんだろうけどめっちゃ性格悪いな及川さん……」
「頭が良いって言ってやれよ……」
大地さんが守備範囲を広げたおかげで月島くんはやっとこさボールを上げれたが、こちらのチャンスボールである。そして勇くんが決める!というところで素早い日向くんのブロック。
そこからキュッと足を翻すと影山くんの速いトスがあがり、これまた誰も追い付けない速さで日向くんのスパイクが決まる。あれ及川さんチビってない?大丈夫?
はい、こちらの負けである。まぁ知っていたので特別驚きはしないが、やっぱり悔しい。おかしいなぁ、読んでるときはこんなに思わなかったのに。
終了後、ドリンク配るついでにゼッケンをあずかり洗濯機に入れて回してから片付けに戻る。直接触れてないとはいえあんだけ動き回ってんだから後が怖い。
「俺、ちょっと顔洗いに行ってくる」
しばらく水分を取っていた勇くんが立ち上がり、体育館を出ていった。そして烏野も体育館から出ていったからか、あきちゃんもふらりと体育館から出ていく。
……ほっといた方がいいな。野次馬心で見に行くものじゃないし。
漫画やアニメの中ではあんなに普通に見ていたのに、今は考慮して見に行けない、なんて、本当に自分はあの二人のことを大切に思ってしまってるんだなとひとつ溜め息をつく。
「おい、誰か及川知らねぇか?」
「え?さっきまでいませんでした?」
…………こっちのイベントも残ってたわ。
「清河、すまねぇ、及川探してきてくんねぇか?片付けもあと支柱とかネットだし俺達がやっとくから」
「あ、はい」
はじめさんの頼みは断れませんよ……。
と、体育館を出るとき勇くんとあきちゃんとばったり出会す。二人とも悔しそうなすっきりしたような寂しそうな、いろんなものを含めた顔をしてるもんだから並ぶ二人に思いっきりダイブした。あぁ、やっぱりこの二人に触れるのはすきだなぁ。
「うお!?なんだよ瑠璃!」
「俺達今汗臭いから離れて」
「二人の汗は臭くないからいいの〜」
細いようで筋肉のついたおっきい二人の背中を擦りながら返してると笑った二人の身体が震えた。
そういえば、こんな話聞いたことあるな。
「二人とも知ってる?大好きな人の汗って臭くないんだって」
「は?」
「だから私は、二人のことが大好きなんだろうね」
「…!?」
「……はぁー…もー、これだからうちの子はかわいいんだよなぁ金田一」
吃驚してる勇くんと、溜め息をこぼしながら頭を撫でてくるあきちゃん。あきちゃんの手が優しくて、私も好かれていると思っていていいのだろうか。っていうかうちの子ってなんだ!いつ二人の子になったんだ!
「じゃあ瑠璃の汗も臭くないんだろうな?」
「え゛っ」
「そうなのか?汗なのに臭くないの気になるな」
あきちゃんは明らかに茶化す目で、勇くんは純粋な好奇の目で背中を丸めて私の肩に鼻を近付けようとするもんだから両腕を張り全力で拒絶する。
「やめ!やめなさい!!嗅ぐな!!あっ!!私はじめさんに及川さん探してこいって言われてるから!!!ばいばい!!!」
その場から身をよじり逃げ出しやっと当初の目的である及川探しに出る。まだ校門かな?
そういえば、と思い出すが、自分から触れに行くくらい二人には拒絶反応が出ていないんだな。むしろ触れると落ち着くくらいだ。
拒絶反応が出るのも嫌だけど、逆に落ち着きすぎるのもなぁ…と自分に苦笑いして、校門まで走った。
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