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噛みきれなかった唇

「折原くん、やめて。わたし、そんな気分じゃないし嫌なんだけど」
「だったら俺を殴るなり何なりして、振り払ってみなよ」


わたしに覆い被さってきた折原くんは、ニヤリと口の端を吊り上げて笑った。歪んだ赤い眸に欲情が見え隠れする。
そんな眸にわたしが映りこんでいて、きっと恥ずかしさのあまり頬が赤くなってるに違いない。
そう考えたら更に恥ずかしくなってしまい、離れる為に折原くんの両肩をつかんで押した。
だが彼はくつくつ笑うだけで、わたしの上から退いてくれなかった。


「そんな力じゃ無理だって。もっと本気を出して、こう、鳩尾や脇腹を殴るとか、急所を蹴り上げるとかしないとね。尤も、退く気なんてこれっぽっちもないけど」
「…折原くんは急所を蹴られたいの?」
「まさか!そんなわけないじゃん。無いとは思うけど、再起不能にでもなったら嫌でしょ?俺を退かせたいなら、っていう例え話だよ」


言い終わると同時に折原くんがずい、と更に顔を近付けてきた。
その動きで必然的に身体は更に近付き、距離がほとんど無くなってしまった。
折原くんの体温を服越しに感じて、一気に体温が上がった気がする。
額、瞼、鼻先、頬、唇。順を追うように何度も何度も執拗に口付けられる。
最近になって気付いたことだが、折原くんは必要以上にキスをする。
理由を付けてはことある毎に場所も考えずキスしてくるから、普段は兎に角鬱陶しくて仕方がない。
なのに、どうしてかこういう時のその行為は気持ち悪いくらい様になっていて、気分じゃない嫌だ嫌だと言っているわたしの理性を段々と後退させていく。


「ん……」
「あれ、どうしたの。気分じゃないって言ってたのはどこの誰だっけ」
「…うるさい」
「あはは、君は本当に素直じゃないよねえ。でも、そんなところも愛しいよ、俺は」
「うあっ、ちょ、どこ触って、」
「どこって…別に減るものじゃないし、今更じゃないか。もしこの先の行為に心配してるなら、大丈夫だよ。いつも通り優しくするし、痛くしないから」


別にそんな心配なんてしていないのに、折原くんはいつも通りというか、いつも以上に壊れ物を扱うかのように行為を進めていく。
そんな優しさに、与えられる愛撫を制止する為に突き出した手は目的を失って、結局折原くんの首へとまわすしかなかった。
わたしのする抵抗は確かに抵抗ではあるけれど、ただのフリでしかないのかもしれない。
既に理性なんてものは欠片しか無いわたしは、彼へ身を任せていた。
快楽に脳を支配され、がつがつ身体を揺さぶられながらも視界に映る折原くんはピントがずれることもなく綺麗だ。
彼の黒い綺麗な髪も、日焼け知らずといった白い肌も、触れる長い指先も、艶やかな声を吐き出す口も、わたしを捉える熱に侵された赤い眸も、何もかも。全て綺麗で、愛しい。


「……折原くん」
「何?」
「好き、だよ。あいしてる」
「……はは、どうしたの。いつもはそんなこと言わないじゃないか。良すぎて、おかしくなった?」
「……そうかもしれない。折原くんのせいで、おかしくなっちゃった」
「……本当に、どうしちゃったのかな。まあ、いつものことだけど」
「ん……あいしてる」
「わかってるよ。俺も君が大好きだし、あいしてる。愛すべき人間達の一人としても、俺個人の特別としても」


安っぽい響きだが熱を孕んだ吐息に乗せて、わたしと折原くんは愛を囁く。
わたしは指先で折原くんの頬に触れた。


(20110606)小夜曲様に提出



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