骸はさあ、血液型、なに?
笹川京子からでも借りたのであろう、いかにもといった女子向けの雑誌を手に、綱吉は雑誌から目を離さずこてんと首を傾げて聞く。
優雅に茶(ではなくたっぷりのチョコレートが入ったホットチョコレートだ)を飲んでいた骸は、怪訝な顔を綱吉に向けた。血液型、とは。なぜ。

「ん。なんとなく、骸はBかABっぽいなあ、って。几帳面だけど、二面性あるし、ABかな」
「なんですか、それは」
「だから、血液型の話」
「なぜ、血液型で、二面性や几帳面と出てくるのですかと聞いているのです」

 え。骸の問いに綱吉はただでさえまんまるな瞳を大きく見開き、ぱちぱちと瞬きを数回、繰り返す。
なんで、っていわれても。相変わらずの間抜け面で言われる的を得ない返答に苛々した。この男は物事を簡潔に話すことが下手すぎる。

「血液型で性格を判断するのはおかしいでしょう」
「ええ、そうか?結構、あたるけど……あ、そっか」

 血液型で性格を判断するのは日本人だけなんだっけ。そう言っていたのは、獄寺だったかはたまたランボやフゥ太たちと見たテレビの偉そうなキャスターだったか。まあ、どちらでもよい。日本人では当たり前の血液型診断も、一応外人である骸には理解できない思考なのだろう。名前がおもいっきり漢字なので勘違いしがちだが、彼は日本人ではないのだった。まぎらわしいったらない。
でもさあ、と、綱吉は続ける。血液型で性格判断は、もう、この際おいておくとして。自分の血液型を知らないのはまずいんじゃあないか。

「血が足らない時、どうするの」
「僕は吸血鬼か何かか」
「違うって、だから、もし、死にそうになったとき」

 綱吉の言葉に骸はハッと憎たらしく鼻で笑い、マグカップに口をつける。この僕が、万が一でも、そのような状況になるとでも?馬鹿にしたような(いや実際に奴は今、綱吉を盛大に馬鹿にした)笑みで自信満々に告げる骸は、それはもう懇親の力で殴り倒したいほどの笑顔だった。
うっわあ、はらたつ反応。飲んでるの、俺でも飲めないほど甘いホットチョコレートのくせに。マグカップの柄なんか、女の子や小さな子どもが好むような可愛らしいポップなクマのくせに。

「でも一応、調べてこいよ」
「いいです。いりません。時間の無駄です」
「献血でちょっと血、抜いてくるだけだろ。すぐ終わるよ」
「下民如きが僕に触れるなど」
「どこの王様だ、お前は」
「しつこいですねえ」
「お前も折れないな……なに、注射怖いのか」
「まさかそんなことあるわけないじゃあないでひゅか」
「おい噛んでるぞ」

 くふ、と笑って髪をかきあげる骸の持つマグカップは盛大に揺れていて、なるほどビンゴかと笑いを通り越して呆れた。
同年代よりもずっと大人びた見た目に対して、中身がまるで幼い子どものようなのだが、彼はこれでいいのだろうか。というか、骸を慕う犬や千種、クロームはこれでいいのだろうか。
雑誌をたたみ、ベッドに置く。近くに献血できるところはあったかなと頭をめぐらせながら、骸と同じく用意されたホットチョコレート(しかし彼より甘さは控えめだ)を一口、飲み込んだ。あまい。喉が焼ける。こんな甘いものを好む骸はやっぱり子どもみたいだ。B型な気もしてきた。どれだろうなあ。しかし、いい弱みを握れた。
今度の日曜、献血に彼を連れて行こうと心に誓い、ほくそ笑む綱吉に骸は嫌な予感しかしなかった。






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