贈物。 | ナノ
三つの願い事



ふう、と大きく息を吐く。
手に持った瀞霊廷通信を胸の前で抱えて、目の前の扉をじっと見上げた。


忙しい副隊長に代わって、今日は私が瀞霊廷通信の配布係。
締め切りに追われている副隊長は、そりゃもうひどい顔で。
目の下のくまとか、ちょっとぼさぼさの髪とか、いつものカッコいいと騒がれてる姿とはまるで別人。
せめてそんな負担が減るように、と私が自ら配布を申し出た。

…というのは実は口実。
いや、別に負担を減らそうと思ってるのは事実だよ?
だけど、本当の目的は別にある。

ずっと前から密かに慕っている、浮竹隊長に会いたくて。

公私混同は避けなきゃいけないってわかってるけど、少しでもお話したいじゃない。
隊が違うから、尚更。

浮き足立っているのバレたのか、編集室を出る直前、副隊長に、くれぐれも寄り道すんじゃねえぞ、なんて釘を刺されてしまったけれど。


いざ雨乾堂の前に立つと、緊張してしまって中に入ろうにも入れない。
そんなの普通に入っていけばいいんだけど、それすらも勇気が出なくって。

あわあわと迷っていると、いきなり扉の中から声がして。



「楠?俺に何か用なんだろう?いつまでそこで迷ってるんだ」

『ひゃっ!!う、浮竹隊長…!べ、べつにま、まよ、迷ってなんか…』

「そうか?じゃあ俺が感じていた霊圧は気のせいってことになるな」



し、しまった…!
まさか霊圧でバレてたなんて。
思いもよらない自分の失態に、かぁ、と顔が赤くなる。

って、え?
浮竹隊長、私だってわかってくれたってことだよね?
そりゃ隊長格にでもなればそれくらい普通なんだろうけど。
でもやっぱり、名前を覚えててくれたことが嬉しい。



「すまん、今手が離せなくてな。中に入ってきてもらえるか?」

『はっ、はい!!』



上ずる声と震える手。
浮竹隊長のありがたすぎる申し出に、またさっきまでの緊張が蘇る。

恐る恐る戸を開けると、室内に浮竹隊長の姿がなくて。
あれ、と思えば、こっちだ、と縁側の方から私を呼ぶ声がした。



『し、失礼します…』

「はは、そんなに改まらなくていいんだぞ。わざわざすまないな」



縁側に座って外を眺めていた浮竹隊長がこちらを振り返る。
おいで、と手招きされて歩み寄れば、相変わらず爽やかな笑顔につい見惚れてしまいそうになるけれど。

ふと視界の端に白い塊が入ったことで、私の意識はかろうじて繋ぎ止められた。



『あれ?浮竹隊長…その膝の…』

「あぁ、こいつか。よくわからないが、どうやら懐かれたみたいなんだ」



な?とその白い何かを浮竹隊長の大きな手が撫でる。
するとそれが嬉しかったのか、にゃあ、と声を上げて。

その正体は、ふんわりとした白い毛が、浮竹隊長にそっくりの。



『え、もしかして…猫、ですか?』

「はは、楠には何に見えてたんだ?」



気持ち良さそうに目を細める子猫に、浮竹隊長がお前もそう思うよな、って話し掛けて。
それに応えるようにごろごろと喉を鳴らすその様子を見る限り、よほど浮竹隊長が好きらしい。

そんな風に笑い掛けられる子猫が羨ましいだなんて、思いたくないけど。
でもやっぱり、いいなぁ、なんて。



「ここ最近よく出入りしていてな。俺と同じ白い毛だろう?えさをやってる内に、なんとなく親近感を覚えてしまったんだ」



なんとも浮竹隊長らしいエピソードに、つい自然と笑みが漏れる。
確か日番谷隊長にも、同じような理由でお菓子をあげてるんだっけ。
日番谷隊長はいらないって言ってるみたいだけど、ね。

それなら、と浮かんだ疑問。



『あの、名前とかあるんですか?』

「名前か…。考えてなかったが…シロ、なんてどうだろう。俺と似ていることだし」



白いから、シロ。
これもまた浮竹隊長らしいネーミング。
こういうストレートな名前も、浮竹隊長だからこそ成り立つのであって、もしうちの副隊長が言ったら「何言ってんですか」なんて言っちゃうかもしれない。

想いって、すごい。


まるでたかいたかいするみたいに子猫を抱き上げて、シロ、と名前を呼ぶ。
にゃあ、と鳴いたその様子は、まるで自分の名前だってわかったみたいで。

白い毛が太陽に反射して眩しい。
同じように、浮竹隊長の白い髪もきらきらして。



「そうだ、楠も撫でてみるか?」



浮竹隊長がその仔の向きを私の方に変える。

エメラルド色したまん丸の目がじぃっと私を見つめて。
その後ろの浮竹隊長も、楽しそうに私を見上げている。

浮竹隊長に抱っこされてるせいか、まるで撫でられるのをおとなしく待ってるみたい。

かわいいな、なんてそっと頭に手を伸ばした瞬間、子猫からあがったのは、にゃあ、なんて可愛い鳴き声じゃなくて、警戒心むき出しのふーっ、て声。
するり、と浮竹隊長の手から離れて、その背後へと隠れる。
そして何事もなかったかのように、丸くなって日向ぼっこを始めた。


え、何が起きたの?

びっくりして固まったままの私と、ぽかんとした浮竹隊長の表情。
それがだんだんと崩れて、しまいにはくく、と喉の奥で笑い出した。



『ちょっと、浮竹隊長!笑わないでください!』

「す、すまん!まさか唸るとは思ってなくてな…っ、ははははは!」

『だから笑いすぎですってば!』



ったく、と笑いながら背後に回った子猫を撫でれば、またさっきみたいに喉を鳴らしてその手に擦り寄るから。

…ホントに浮竹隊長にしか懐いてないってことね。
私は浮竹隊長にしか撫でられたくない、そう言われてるような感じ。
なんか、この仔から宣戦布告された感じがするのは気のせいじゃないよね…?

子猫の可愛さに勝てる気はしないし、ふぅ、と溜め息をついてそこにしゃがめば、同時に私の頭に乗せられた大きな手。



「はー、すまないな。きっとそのうちに慣れると思うから。また遊んでやってくれないか」



再びびっくりして固まってしまった私に、浮竹隊長がはは、と笑って。
けど、頭に乗せられた重みと向けられた笑顔は、さっき羨ましく思ってたものと同じ。

自分でもわかるくらい顔が赤くなっていくのを感じて、思わず下を向いてごまかした。


どうしよう。
今の私、絶対変な顔してる。
嬉しすぎて、うまく表情が作れないよ。



「そうだ、俺に何か用事だったんだろう?どうした?」

『あ、これ。副隊長の代わりに持ってきました』

「あぁ、そうか。檜佐木くんは缶詰めだったね」



忘れていた本来の目的。
一瞬にして、鬼の形相の副隊長が頭に浮かぶ。

私は慌てて瀞霊廷通信を差し出して。
今月の表紙も山本総隊長で(というか他にやりたがる人がいないんだけど)、それを見た浮竹隊長がさすが先生、って笑って。

あぁ、かっこいいなぁ、やっぱり。



「さっきのお詫びもあるし、よかったらお茶でも飲んでいかないか?白哉からおいしいおはぎをもらったんだ」

『え?』

「あ、でも仕事が忙しいかい?それなら無理にとは言えないけど」

『いえ、ぜひともお付き合いさせてください!!』



つい意気込んでしまった私は、浮竹隊長にそんなにおはぎが嬉しいのか、なんて言われてしまって。
おはぎじゃなくて、もう少し浮竹隊長と一緒にいられるのが嬉しいんです、なんてもちろん言えないけれど。


子猫の頭をまたな、と一撫でして。
立ち上がって室内へ踵を返す浮竹隊長の背中を追い掛けながら、私はこみあげる嬉しさを抑えるのに必死だった。



ごめんなさい、檜佐木副隊長。
戻ったらお説教は何時間でも聞きますから。
その覚悟も、もうできましたから。

もうちょっとだけ、ここにいさせてください。






end.


『うさぎごや』の伊波さまに捧げる相互記念夢、「浮竹隊長のほのぼの夢」でした!

まず一言。
遅くなってしまって、本当に本当に本当にごめんなさい…!
2ヶ月以上お待たせしてましたね…。
せっかく相互してくださったのに、本当に申し訳ないです。

そして、浮竹隊長がまったくのニセモノでもう…!
コレ誰?的な苦情、覚悟しております;
せめてほのぼのだけは、とも思いましたが、それですらないとかどういうことですかねorz

一応精一杯頑張ったつもり、なので…
一度だけでも目を通してくだされば嬉しい、です。

返品・ご意見いつでも受け付けますので!!!
なんなりとお申し付けくださいm(__)m


こんな残念なサイトと相互してくださってありがとうございます!
これからもどうか仲良くしてやってくださいませ☆



Title/capriccio様 小夜曲第十六番/03より
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