わがまま言い放題
『ちょっ、一兄!ずるいよ!』
「ばーか、お前がぼーっとしてっからだろ?」
『ぎゃあ、またそういうことする!!夏梨ちゃん、助けてー!』
「もー、また?鵺雲姉頑張んなよー」
俺たちの様子を見ていた夏梨が、ぶつぶつ言いながらも鵺雲の隣に座る。
今までだってそれなりに手を抜いてたつもりだけど、こいつのゲームの弱さはずば抜けていて。
さっきから画面の中の鵺雲はなんとも微妙な…強いて言うならカクカクとした動きをし続けている。
近くに住んでる鵺雲とは、所謂幼馴染で。
俺の一個下で、昔からどこへ行くにもよく俺のあとをくっついて歩いていた。
コイツに兄弟がいねえってこともあるせいか、俺のことを「一兄」って呼んで、ホントの兄貴みてえに慕ってくれている。(ちなみにこの呼び方は夏梨の影響だ)
何の偶然か同じ高校に入って、下手すりゃ一日に何回だって顔を合わせてんのに、鵺雲は学校が終われば毎日っていっていいほど俺んちに来る。
そんなにおもしれえモンがあんのか?って思うけど、別にそれが嫌ってワケじゃねえし、夏梨も遊子も鵺雲になついてるから、逆に家の中が明るくなっていいんだけど。(一番テンションがあがってんのは親父だが)
「おらぁ、こうしてくれる!」
「ばっ…夏梨!何しやがる!」
『やったー!!さすが夏梨ちゃん!』
夏梨に代わった途端、画面の中の俺はあっという間に吹っ飛ばされる。
俺が本気出しても適わねえとか、どんだけ強えんだ。
たつきといい勝負だな、俺が思うに。
画面で光る「WIN」の文字と、きゃーきゃーとはしゃぐ鵺雲を横目に、俺はソファーへと腰を降ろして。
放り投げたままだったカバンからごそごそと宿題を取り出した。
俺の様子を目で追っていた鵺雲が、慌てたようにカバンを手にとって俺の正面に座って。
『あ、一兄!待って、私もやる!わかんないトコあったから教えて?』
「ゲームはいいのか?」
『うん、またあとでやる。一兄もだからね』
「俺もかよ」
気紛れな鵺雲の行動に、つい笑みが浮かぶ。
いつものことだけど、ホント自由だよな。
俺と同じようにノートを広げた鵺雲が、よーし、と気合いを入れる。
さっそく問題に取り掛かると思いきや、俺の方に教科書を向けて。
『これ、ここがわかんないんだけど、どうしたらいいの?』
鵺雲が指差したのは、練習問題、と書かれたページの一番上。
つまり、第一問の(1)ってやつだ。
…最初っからかよ。
大抵第一問目って、基礎じゃねえのか?
差し出された教科書をぱらぱらと捲ってみれば、俺の考えは大当たり、例題に似たような問題があって。
「…鵺雲、お前授業聞いてたか?」
『聞いてたよ、今日はここからここまでやったし、見て、ちゃんとノートもとってあるでしょ?』
さも頑張りました、みたいに言うもんだから、どんなもんかと見てみれば。
確かにとってあるけど。
明らかに寝てただろってわかるような、こう、みみずが這ったような字がノートの上に踊っている。
これは…俺の目がおかしいのか?
明らかに文字の形してねえし、寝てたって思い込むなってのが無理かもしんねえけど、俺が読めないだけで鵺雲には読めるのかもしれない。
「鵺雲、もっかい聞くぞ?…本当に、聞いてたか?」
『うん、聞いてた』
「じゃあここ、なんて書いてあんのか読んでみ?」
『えーっと……?し…ん?じゃないな、なんだこれ?』
眉をしかめて、読めないとかなんとか言ってるのを、当然聞き逃すワケもなく。
やっぱり寝てたんじゃねえかってデコピンしてやれば、盛大に額を押さえて喚いて。
『いーたーいー!!一兄が殴った!』
「殴ってねえだろ!そんな嘘つくのはどの口だコラ!」
『いひゃい、いひゃいよ!』
頬を思いっきりつまんで、ぐりぐりとひっぱってやる。
最初から素直に聞いてなかったって言えばここまではしないものを。
べしべしと俺の腕を叩く鵺雲の力がちょっとだけ本気になりつつあるところで、俺は漸く解放してやる。
これ以上やったらこいつが泣き出すってこともわかってたし、うちのやつらが怒り出すってこともわかってるから。
「ったく、教えてやっから、次からはちゃんと授業聞けよ?」
『ふぁい…』
頬を擦りながら新しくノートのページを開いて、お願いします、と頭を下げた。
******
「…そう、んでここは…さっきやっただろ?どれで出したらいいか、わかるよな?」
『あ、そっか、sin30°の場合はSの字で見るから…コレであってる?』
「そうそう、やればできんじゃん、お前」
『へへー』
基礎から一つ一つ教えていく。
一通りそれを教えてから、練習問題の繰り返し。
鵺雲が問題を解いてる間に、俺は自分の宿題を進めて。
もともとモノの飲み込みは悪くないし、わかんなくなったら声かけろって形の方が、鵺雲の場合はいい。
だから教える分には楽なんだけど。
…なにぶん集中力のなさが問題で。
最初のうちはよかったんだけど、隙を与えりゃすぐに飽きただのお腹すいただのって喚き出す。
そのたびに俺の溜息と説教みてえな声が炸裂して、鵺雲の笑い声がこだました。
「オラ、あと二問だろうが!それくらい集中してやっちまえって!」
『だって糖分が足りないんだもん!一兄、チョコ頂戴!ほらー、隠してんのあんでしょー?』
「なっ…んなもんねえよ!」
『嘘吐きー!私一兄がこの前こっそり隠してたチョコを食べてたの知っ…』
「あーあーあー!!わーったよ!持ってきてやるからさっさと解け!」
何で知ってんだよ!
誰にもバレてねえと思ってたのに…こいつ意外に俺のこと見てやがんな…。
隠れて食ったのが遊子にバレたら、間違いなく飯抜きになっちまう。
部屋から持ってきたそれを鵺雲に渡せば、なんとも嬉しそうな顔して食べるから、まぁこれはこれでよかったのかと思う。(つくづく甘いよな、俺も)
どうやら本当に満足したようで、残ってた二問をまるで嘘みてえにさらさらと解いて。
できた、と差し出されたノートを見りゃ、解き方も答えも完璧。
…糖分の力なのか、俺の教え方がいいのかその辺はよくわからねえけど。
『どう、一兄!合ってる?』
キラキラした目で頬杖をついて、満面の笑みを浮かべて。
これで嘘でも間違ってるなんて言ったらすげえ落ち込むんだろうな…。
『一兄?』
不思議そうに俺の顔を覗き込んでくる鵺雲の頭に、俺は勢いよく手を乗っけて。
「よく頑張ったな」
そのままわしゃわしゃと撫でてやれば、さっきよりも更に嬉しそうに笑った鵺雲。
一兄のおかげだよ、なんて素直に礼なんか言われたことなかったから、照れ隠しってワケじゃねえけど、さらに髪を撫でてやって。
『ちょっと一兄!髪ぐしゃぐしゃだよ!もー!』
「あ、わりぃ!」
文句を言いながら手ぐしで髪を直して。
問題が解けたことと褒められたことに嬉しそうに笑ってたのも束の間、乱雑に教科書とノートを自分のカバンに詰め込んだ鵺雲から発せられた言葉に俺は驚くしかなくて。
『一兄、ゲーム続きやろ!今度は負けないからね!』
「は!?俺まだ宿題やってねえっつの!」
『ねー、お願い!この通り!さっきのチョコ返すから!』
ぱん、と顔の前で手を合わせて必死に頼んでくる。
そこは終わったらやろうね、って言うとこじゃねえの?
確かに宿題が終わっちまえば鵺雲はもう自由だけど、俺はまだ半分以上残ってるワケで。
別にさっきのチョコはどっちでもいいし、ホントならお前らだけでやってろって言うべきなんだろうけど…そんなに必死に頼まれちゃ断るわけにもいかねえだろ。
「ったく、仕方ねえなー」
『やった、さすが一兄!!』
早く、と急かさんばかりに、鵺雲が俺の制服をぐいぐいと引っ張るから。
宿題もそこそこに、俺はさっきまでの位置に逆戻りで。
『はい、コントローラー!今度は負けないからね』
「おう、やってみろ。手加減はしねえぜ?」
『え、そこは手加減してよ!』
「したら怒んじゃねえかよ」
『だってそしたら勝てないじゃん!』
それくらい百も承知だし、その辺はちゃんとしてやるけど。
俺の冗談を真に受けて、頬を膨らませてじっと見てくるから、俺はつい吹き出してしまう。
そんな俺たちの様子を夏梨と遊子が微笑ましそうに見てたことなんて気づかなかったけど。
俺に向かって勢いよく差し出されたコントローラーを受け取って。
負けないぞ、と意気込む鵺雲と同じように、俺は再び画面を見つめたのだった。
end.
『Bloody Mary mobile』の杉田さまに捧げる相互記念夢、「一護夢/一人っ子ヒロインとお兄ちゃんな一護で、きょうだいっていいなぁ、な感じのほのぼの夢!」でした!
…あんれー?
ほのぼのってよりも、単にわがままな幼馴染みたいになってもうた…!
もっとおにいちゃんな一護にしたかったけど、私の技術ではほのぼのにすらなりませんでしたorz
一護みたいなおにいちゃんがほしいと常日頃思っているのに、どうしてこうなった!!
しかもこんなに遅くなってしまってごめんなさい…!
いつもお世話になってるのに、リクエストに沿えてるのかどうかわからないような夢を捧げてしまって申し訳ないと思うばかり(>_<)
あ、それから…タイトル使わせていただきました!
すみません、ニュアンス違うかもしれないんですけど、「そんなお前がほっとけない」的な副題の意味を込めてみました…!
こんな残念なものですが、よろしければもらってくださると嬉しいです;
誤字脱字等ありましたら何なりとお申し付けくださいませ!!
これからもどうか仲良くしてやってくださいm(__)m
このたびは書かせていただいてありがとうございました☆
そしてここまで読んで下さった鵺雲さま、ありがとうございました!!
Title/Segreto Element様 Loveにまつわるあいうえお/わより