短編。 | ナノ
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黒崎一護/甘



誰にだって、あると思う。
こう…突然、甘えたくなるとき。
偶然誰かがいちゃいちゃしているのを見ちゃったときとか、寂しくなっちゃったときとか。

まさに今の私はそれで、どうしようもなく大好きな一護に会いたくて。
迷惑になるなんて当然わかってた(ちなみに今は夜中の一時)けど、私は一護の番号を探し出して、発信ボタンを押した。


鳴り響くコール音と、やけにうるさい自分の鼓動。
出てくれないかもってことはうすうす感じてたけど、実際に出てもらえないとより一層悲しくなってくる。

やっぱ、寝てるよね?
小さくため息をついて、耳から携帯を離して。



"……もしもし…?"



電源ボタンを押そうとした指先が、その直前で止まる。



『もっ、もしもし!?』



慌てて出れば、眠たげに掠れた一護の声。



"…どうした?"



怒るわけでもなく、ただ私の言葉に耳を傾ける。
その声が、すごく、すごく優しくって、不覚にもそれだけで涙が出そうになった。

上手く言葉が出なくて、私はえっと、と口篭もる。
"会いたい"と一言伝えたいのに、なんだか喉の奥につかえてしまって。



"…寂しい?"



しん、とした部屋に響いた、一護の声。
私の心の中なんてまるでお見通しみたいで、電話口の向こうの一護は、ただ一言そう言った。



『一護…ごめん……会いたい……』



ぽつりと呟かれた声は、自分でも聞き取れるかわかんないような、小さなもの。
絞り出すように出てきたそれに、一護はくすくすと笑って。



"10分で行く"



だから泣くんじゃねぇぞ?って諭すような柔らかな声を残して、電話は切れた。


会いたいからと自分がかけたくせに、結局は一護が来てくれることになって。
自分が会いに行くと言えたらよかったのだけれど、つい優しさに甘えてしまう。

わがままだって、思われただろうか?
めんどくさいって、思われただろうか?

不安と喜びと半分ずつ。
そんな葛藤が広がっては消えていった。


インターホンが鳴ったのは、本当に10分後。
そっと扉を開けた先には、愛しい彼の姿。
私を見るなり、よう、と笑って頭に手を乗っけてくれた。

胸の中の思いが一気にぶわっと広がって、ぽろっと涙が頬を伝っていく。



「あーあー、泣くんじゃねぇっつったろ?」



困った顔をして、親指で目元を拭ってくれる。
涙で滲む視界には、仕方ねぇなぁ、と眉を下げて笑う一護がいて。

中に押し込まれるように玄関を閉めて、そのままぐいぐいと部屋まで押されていく。
パタン、と部屋の扉が閉まって、振り返ろうとした私は、そのまま背後から腕の中へと引き寄せられた。

びくっと体を震わせた私を、さらにぎゅっと閉じ込めて。
求めていた温もりに、また涙が零れた。


気づかれまいと必死に耐えたけど、やっぱり何でもお見通しの一護にはバレてしまって。
向きを変えられて、また正面から見つめられる。

よしよし、と頭を撫でる手に、そうやって何も言わずに優しく笑ってくれる貴方に、私はいてもたってもいられなくなって。

飛び込むような形で一護に抱きついた。



「あっ…ぶねぇ…」



あまりにその衝撃が強かったのか、そんな声を上げて大きく息を吐いた。



「どした?」



どうかしたわけじゃないけど、ただ一護に触れていたかった。
問いかけにも首を振って、背中に回した手に力を込める。

最初は肩に置かれてた手が、ふわっと背中に回される。
私を落ち着かせるように、ぽんぽん、と何度も優しく叩いてくれた。



「しょーがねぇなぁ…お前はそんなに俺に会いたかったのか?」

『…悪かったわね…』

「そんなにも俺のことが好きだってか」

『…そうですけど何か!』



鼻声で胸に顔を埋めたまま呟く。
そしたら頭の上で、一護が笑った気がした。

からかわれてるのはわかるけど、どうにも認めざるを得ない。
わがまま言っといてあれだけど、やっぱ好きで好きでどうしようもないんだもん。



「言っとくけど、メーワクとかわがまま言ったとか思ってんならそれは勘違いだからな?」

『え?』



心の声が聞こえてんじゃないかって思うくらいの、一護の言葉。
どうしてわかっちゃうのかな。



「俺そんなこと、これっぽっちも思ってねぇから」

『そう、なの…?』

「たりめーだろ。好きな女に甘えられて、嬉しくねぇ男なんていねぇよ?もっと困らせてくれてもいいくらいだ」

『……M?』

「バカ!誰がMだ!」



ぐりぐりと頭の上に顎を乗っけられて、あまりの痛さに"ぎゃっ!!"っていうなんとも可愛くない声が出た。
ぶはっと噴き出した一護が、呆れたように私を見下ろして笑う。



「お前、なんつー声出してんだよ…っ!」

『一護のせいでしょ!』

「へいへい」



恥ずかしくて、隠すように顔を押し付けてやる。
ひとしきり笑ってから大きく息を吐き出した一護が、包み込むように私を抱き締めて。
頬をくっつけるようにして、私の耳に唇を寄せた。



「どんなわがままだって許してやれるくらい、俺も鵺雲が好きだぜ?」



直接脳に響く、一護の低い声。
あっという間にとらわれた私は、頷くだけで精一杯。


一緒に布団に潜り込んで、密着するように二人で抱き合って。
寂しがるといけねぇからって言って、私の額に口付けた一護の唇は、びっくりするくらい熱かった。



「ん?なに?」

『ううん、なんでも』

「もっとしてほしいの?」

『寝れなくなっちゃうからいい』

「じゃー寝ろ」

『はい』



顔を見合わせて笑って、どちらからともなく引き寄せられるようにキスをして。
おやすみ、と笑った一護の腕の中で目を閉じた私の心には、幸せだけが広がっていた。









(私を護って、愛してくれる貴方はまるで、麻薬のよう)









end.


自分でも好みの感じに仕上がったぽち。
一護の優しさに甘えたい!

ここまで読んでくださった鵺雲様、ありがとうございました!


Title/箱庭様 お題751-800/784より
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