短編。 | ナノ
永遠について考えてみるひととき



「ただいま」



しん、と静まり返る暗い部屋。
なるべく音が響かないように、慎重に鍵を締める。

編集作業が思ったよりも長くなって、一区切りついた頃にはもう日付が変わっていた。
瀞霊廷通信発行前はこれが普通なのだけれど、連日これが続くと、どうも生活が不規則になって困る。
まぁそんなこと言えるほど、普段の生活がきっちりかっちりしてるわけじゃないけれど。


まだ暗がりに目が慣れていないけれど、見知った自分の家。
音を立てないように寝室に向かうと、膨らんだ布団が小さく上下に揺れていた。

それを見ただけで、生まれる妙な安堵感。
いつも俺が寝ている右側が空けられていて、いつものように鵺雲はそっちを向いて眠っていて。
そんな些細なことなのに、というより、鵺雲にとってはそれが普通ってだけかもしれないのに、俺の帰りを待っててくれてんだな、なんて自惚れてしまう自分にちょっとだけくすぐったくなった。


布団の傍にたたんで置いてくれていた自分の着流しに袖を通してから、定位置へそっと潜り込む。
突然感じられた空気の圧迫感に、鵺雲は少しだけ眉をひそめる。
けれどすぐにそれは解消されて、また規則正しい呼吸を刻み始めた。

起こさないように鵺雲の首の下に腕を差し入れて、頭を抱え込むように抱き締める。
深く息を吸えば、シャンプーの甘い香りが俺の鼻腔をくすぐった。

…やっぱり落ち着く。
今日の疲れが、一気に飛んでいく。
思わず口許が自然に緩んだ。



『…ん、』



小さくうめき声みたいなのをあげて、腕の中で身を捩る。
ちょっと苦しかったか、とその力を緩めるように少しだけ距離をあけてみるけど、それを嫌がるかみたいにくっついてきて。



「…お前、起きてんの?」



そう聞いてみても、返事はない。
無意識なんだ、と思う。
その証拠に、上下にゆっくりと動く肩はそのリズムを変えていないから。


偶然触れたからだと思うけど、右手の先にあった俺の着流しをぎゅう、と握る。
その力が、思いのほかしっかりしてて。

…なんか、赤ん坊みてぇ。
普段は見れねえような、無防備な寝顔がかわいい。
起こさないようにってさっきは思ったけど、こんな顔を見てしまったら、そんな思いは静かな部屋に飲まれて消えていく。


眠る鵺雲の額にキスを落とす。
それだけじゃおさまんなくて、ふっくらした頬にも、長い睫毛が揺れる瞼にも、そして形のいいその唇にも。

そっと降らせたキスの雨に鵺雲はまた眉を寄せるけど、やっぱり起きる気配はゼロで。
それなのに猫みたいにすり寄ってきて、小さく"修ちゃん"って嬉しそうに俺の名前を呼んだりするから。

俺は一人で顔をほころばせながら、ふぅ、とゆっくり息を吐いて。



「…たまんねえよな、ホントに」



どこまで俺を困らせれば気がすむんだろう。
寝てても起きてても、俺の心を簡単につかんでしまうなんて。

けど、それは嬉しい困惑。
寝てるときでも俺の名前を呼ぶなんて、それだけ想っててくれてるってことだから。



「あいしてる、からな」



もう一度瞼に口づけてから、布団を引っ張り上げて首元まで掛け直す。
その瞬間、鵺雲がふわっと微笑んだ気がして、俺はまた捕らわれて。

お前が悪いんだからな?
朝起きたら、こんなもんじゃすまねえくらい、キスしてやる。







end.


寝顔を見ながら微笑む修兵さんがイメージに浮かんだら幸い。
まったりーなほっこりーなっていう感じの二人を目指してみました(伝わるのか?)


ここまで読んでくださった鵺雲様、ありがとうございました!


Title/capriccio様 協奏曲第二十八番/04より
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