短編。 | ナノ
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檜佐木修兵/甘/パラレル



目の前の光がgoサインへと変わる。
前の車がゆっくりと動き出したのを見て、修兵はそれに合わせてアクセルを踏み込んだ。

片道三車線の道を、ぐんぐんと走っていく。
ある程度スピードが乗ったところで、それまでギアを握っていた手が私のほうへ差し出された。
私がなかなかそれに手を伸ばさないのをじれったく思ったのか、小さく息を吐いて、前を見たまま私の手に指を絡めてくる。



「ほら」



ぎゅっと握られた手が暖かくて心地よい。
自然とその手を握り返した。


久しぶりにこうやって二人で出かける。
大手会社に勤める修兵と、アパレルに勤める私ではなかなか休みが合わないのだけれど、今日は私に合わせて有給を取ってくれたのだ。
その為に、ここ最近ちょっとだけ忙しくしていた修兵に申し訳ないと謝ったら、「これくらい何でもねぇよ。俺を誰だと思ってんの?」と笑われてしまった。


車内にかかるアップテンポのロックサウンド。
そんなに激しくなく、メロディアスでとても聴きやすい音楽は、私も修兵も好みのジャンルで。
時折響くような低音が耳にこだまする。

その音を聴きながら、私はふと窓の外に目を向けた。



『あ!』

「どした?何かあった?」



私の目に映る、青空に走った数本の飛行機雲。
久しぶりに見る光景に、何だかとても嬉しくなった。
つい窓に体を寄せるようにして上を見る。



『修兵、飛行機雲だよ?すごい、久しぶりに見た!』

「ん?…あー、ホントだな」



フロントガラスから見えるその一部分に目を向ける。
修兵も久しぶりに見た、と口許を緩めた。



『ね、何かいいことありそうな気がするね!』



別にそういったジンクスがあるのか知らないけれど、ふと自然にそんな気がして。
窓の外の雲を、視線で辿る。



「いいことかぁ…。もう、あるんじゃねぇの」

『え?何?』



修兵の言葉に振り向くのとほぼ同時に、小さく重力をかけながら止まる車。
信号から私へと視線を移す修兵がふわっと笑って、その双眸にしっかりと私を捉える。



「俺と鵺雲の休みが合って、こうやって一緒にいられるわけじゃん」

『うん』

「今が、そうだと思うけど?」



しっかりと握られた手と、こうやって一緒に過ごせる時間。
そんな何気ないことが、とてもとても幸せであることを教えられる。



『…うん』



繋いでいた手がすっと離れ、代わりに私の後頭部に添えられる。
くっと引き寄せられたかと思うと、そのまま軽く唇が触れ合った。

突然のことに目を閉じることを忘れた私。
間近で見る端整な修兵の顔に、心臓が大きく音をたてる。
長い睫毛がふわっと揺れ、ゆっくりと開かれた瞳と当然ながらばっちり視線が交わってしまい。



「鵺雲…何で目開けてんの?」

『えっ!!?あ!べ、別に、何でも…!!』



恥ずかしくなって慌てて離れると、くすくすと余裕そうな笑みを浮かべた修兵に頭を撫でられた。
その手でまた手を握られて、信号が青へと変わったのをきっかけに車を走らせ始めた。


どきどきが伝わってしまうんじゃないかってくらい熱くなった全身。
けれど私の心は、あったかい気持ちで満たされていた。










end.


大人な修兵さんを目指してみました。
片手ハンドルでバックとかやっちゃうと思う。
実際にそんなの見たら、ときめきます。

ここまで読んでくださった鵺雲様、ありがとうございました!
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