心音メトロノーム
『はぁ…』
「オメーよぉ…。人を呼び出しといて溜息つくたぁ何事だ」
『ん?溜息?』
「気づいてねぇのかよ。壊れたか?」
鯛焼きを奢ってやるからついて来いと言われ、ほいほいついて来てしまった俺もどうかと思うが。
まぁ非番で暇してたのは事実だし、鵺雲に付き合ってやった俺。
相当人がいいな、なんて自負してみる。
だけど、目の前のコイツはさっきから溜息をつくばかり。
しかも無意識と言うのだから、どうにも救いようがねぇ。
「何だって呼び出したんだよ?何か話でもあったんじゃねぇの?」
『うん、そうなの。私さぁ、何か変なんだよね』
「オメーはいつも変だ」
『失礼な』
ボカっと机越しに頭を叩かれる。
思いのほかその力が強くて、一瞬目の前がちかっとした。
睨んでやったけど、つーんとそっぽを向かれ。
そのまま自分の餡蜜を食っている。
そんな姿に呆れて、俺も目の前の鯛焼きを頬張った。
『そう、そんでね?…私、この前檜佐木先輩に抱き締められたんだけどさ』
「んぐっっっっ!!!!」
『大丈夫!?…いや、別になんかあったんじゃなくてね。躓いたところを助けてもらった拍子にぎゅーって』
勢いあまって鯛焼きが喉に詰まる。
お茶を流し込んで息を整えた。
そういえばこの前飲んだ時に檜佐木さんも言ってたな。
廊下で躓いた鵺雲を抱きとめたって…。
気持ち悪いくらい興奮してて、赤い顔が可愛いだのやわらけーだのいい匂いがするだのって散々俺に言ってきた。
…正直そのテンションに引いたけど。
挙句の果てに仲を取り持ってくれとかまた話聞いてくれって言われて。
その場は酔っていたこともあったし、適当に相槌打って乗り切った。
それにしても、鵺雲も檜佐木さんも何で二人揃って俺に言ってくるんだよ。
『それがさ、すっごいどきどきしちゃってさ…。それ以来檜佐木先輩を見るとどきどきしちゃって気持ちがきゅーってなるの。何なんだろうね、これ』
「それはオメー…」
恋だろうよ。
誰がどう見ても恋ってやつです。
というより気づいてねぇのかよ!
世話が焼けるヤツだな…。
俺が呆れているのにも気づかず、むぐむぐと餡蜜を食いながらまたはぁ、と溜息をついた。
お互いに想い合ってんなら、もうさっさとくっついてくれよ。
でもそのためには…まずはコイツに気づかせねぇといけねぇな。
俺は残りの鯛焼きを口に放り込んで、鵺雲を外へと連れ出す。
『ちょっと恋次!何!?』
驚いて声を上げる鵺雲を無理やり引っ張って。
甘味屋から少し離れた、人目のつきにくい細い路地に入った。
手を放すと、何よ、と口を尖らせて俺をじっと見てくる。
「鵺雲さ、さっきの気持ちの正体知りてぇんだろ?」
『うん』
「じゃあさ、同じこと俺にしてみ。…ここ、来いよ」
手を広げて、ほら、と来るように促す。
突然の俺の申し出に、鵺雲は戸惑った様子で眉をハの字にしていて。
この状況を全く理解できていないようで、口をぱくぱくさせていた。
「鵺雲が来ねぇなら、俺からしてやろうか?」
一歩近づいて、俺の胸へと引き寄せる。
するとはっとした顔でぶんぶんと首を振りながら、両手を俺の胸について距離を保とうとする。
『え!いいよ、別に!なに、恋次!?』
ふう、と溜息をついて、俺は自分の腰へと手を当てる。
鵺雲も手を下ろして、胸の前で両手を組んでいた。
「そういうこった」
『え?』
「俺に同じことされるの、どきどきした?」
『あ…』
「したとしても、違う感じしなかった?…誰でもいいってワケじゃねぇだろ。檜佐木さんだけ、じゃねぇの?」
視線を泳がせて、こくんと頷く。
自分の気持ちに気づいたみたいで、顔を赤くしながら。
鵺雲の頭を撫でて頑張れよ、と笑いかけると、鵺雲も笑って頷いた。
『…恋次、また、相談乗ってね』
「気が向いたらな」
相談に乗れ、か。
また二人して同じことを言う。
喉の奥でククッと笑いが零れた。
鈍すぎる鵺雲に、気持ち悪いくらいうかれている檜佐木さんに。
この先二人の気持ちが通じるようになっても。
きっとまた俺は、振り回されるのだろう。
end.
HAPPY BIRTHDAY 恋次☆
当初は修兵夢の恋次視点で仕上げる予定だったのですが、「あんまり修兵でてこなくね?」って思い、急遽恋次夢に変更。
そしたら何の偶然か今日は恋次の誕生日。
あんまり関係ない夢だけど、赤髪の副隊長に捧げます。
このお話の恋次は鵺雲様のこと好きです。でも恋愛感情とかじゃなくて、友達の好き、に近い感じっていう設定です。
お人よしなので、何だかんだで世話焼いちゃう。
そんな感じが伝わってればいいな。
ここまで読んで下さった鵺雲様、ありがとうございました!
Title/capriccio様 狂詩曲第十二番/15より