短編。 | ナノ
さいしょを、まちがえて、今。




フジョシ。

俺が初めてそれを聞いたのは、鵺雲に告白した日のこと。

「ずっと好きだった」と伝えた俺に返ってきたのは、『フジョシでも、いいですか?』っていう答え。

当時の俺は、その言葉を《婦女子》と変換していて(というかそれしか知らなかった)、別に普通じゃん?なんて思って、即OKしたんだけど。




『もー、修兵!動かないでってば!』

「俺もう腹減ったんだけど」

『あと少しだから我慢して!』



今俺は何故か、鵺雲の下敷き…つまり、鵺雲が俺の上に馬乗りになっている。
普通ならおいしい状況だし、俺の下半身も例に漏れず健全な状態なのに。
残念ながら、今の俺に自由など全くない。

当の鵺雲は眉間に皺を寄せながら、手に持っている紙と俺を何度も見比べている。



『ね、ちょっと腕を上に上げて?…そう、両方とも!んで、もうちょっと横向いてもらって…目線だけこっち』



言われた通りにすれば、何ともキラキラした目で俺を見つめる。



『…っ!さすが修兵!!誘い受け!!!』

「…そうですか」



グッジョブ!!と最高級の笑顔を俺に向け、またガリガリと紙に続きを描き始めた。



鵺雲にばれないようにため息をつく。


そう。

フジョシとは《婦女子》ではなく《腐女子》と書くほうだった。


何でも鵺雲は女性死神協会の裏側にこっそりと存在する《腐女子死神協会》に所属していて。
しかも月一回発行されるらしい冊子にイラストを載せていると言う。
その参考にしたいからと、時間を見つけては俺をモデルにそれらしいポーズを頼んでくるのだ。

そんなに絵が上手いなら、と以前本誌の瀞霊廷通信にイラスト描いてくれと頼んだら、『私は表には出ないの』ときっぱり断られてしまった。


とりあえず攻めだの受けだの×だの想像をはるかに超える世界の存在を知ったときは、口から魂が出ていっちまうくらい驚いた。

というより、たぶん出たと思う。


でも今では実際に絡め!とか言われない限り冷静な顔でいられるくらいの耐性がついてしまい。

…慣れって怖ぇなって思った。






『修兵、ちょっとごめんね』

「ん?……え!?おま…っ!!!」



着流しの衿を突然がばっと開かれ、上半身が見事に晒される格好になってしまう。

何かと思えば、鵺雲曰くこの方が誘ってる感じがするらしい。
また嬉しそうな笑みを浮かべて、筆を走らせ始めた。



俺の勘違いから始まった関係。
普通ならこういうのはありえねぇって言われると思う。

けれど、婦女子であろうが腐女子であろうが、俺が鵺雲を好きだってことには変わりねぇし。
それに、この後は攻守交代になるわけだし?



「鵺雲」

『んー?』

「終わったらさー、喰っていいよな?」

『んー』



…言ったな。
きっと自分自身が喰われるなんて思ってもいないだろうな。

こんな体勢で散々焦らしてくれたお礼、たっぷりしてやるよ。



『よし、できたぁ!これで今月も良いのができそう!ありがとね、修兵』



俺の上に跨った鵺雲の、へにゃっと笑って力が抜けた瞬間。
すっと自分の体を引き抜いて、代わりに鵺雲を後ろに押し倒した。

さっきまで下にいた俺を今度は見上げる形になって、びっくりした顔で見つめてくる。



『あれ!?何この状況!』

「もう受けの俺はおしまい。俺さ、お前の前では攻めだし?交代しねぇとな」

『だって終わったらご飯って…』

「ん。だから喰うよ?鵺雲を」



俺の言葉に、かぁっと頬を染めてぎゅっと口を結ぶ。
お前の方が、俺なんかよりよっぽど誘い受けだと思うぜ?

そんな鵺雲を見て、自然に緩んでしまう口許と、一箇所に集まっていく血液。

太腿にソレを押し付けてやれば、さらにその頬は赤くなっていく。

音をたててキスをして、触れるか触れないかの距離で言ってやった。




「イタダキマス」









end.


前回が少し甘えただったので、今回はちょこっとSめの修兵さんにしてしまいました。

組み敷かれている修兵は、本当に萌要素満載だと(勝手に)思ってます。
鼻血が出(ry

趣味丸出しでごめんなさい…!



ここまで読んで下さった鵺雲様、ありがとうございました!




Title/capriccio様 三六五題/175より
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