短編。 | ナノ
8cm。



『修兵?』

「なに?」

『暑いよね、今日も』

「そうだな」

『……暑いよね?』

「んー」



聞こえていないのかと思って確認してみたけれど。
返事をするということは、どうやら聞こえているらしい。

でも、返事をするだけであって、一向に動く気配はゼロ。



『暑いならさ…離れてくんないかな…』

「ごめん、無理」

『もー、離れてください〜』

「無理言わないでください〜」



この暑いときにイラッとする。
わざわざ私の話し方を真似するなっての。

さっきから私を抱えるように後ろから腕を回して、ぴたっとくっついてくる男、檜佐木修兵。
彼の言い分によれば、プライベートの時間くらいぴったりしてたっていいじゃん、らしい。


確かにいくら恋人であるとはいえ、彼の立場上、仕事中に補佐でもない私と一日中一緒にいるわけにはいかない。
けど、その反動か何なのか知らないけど、勤務時間以外はこうやって何をするにもくっついてくる。

冬ならまだしも、夏は正直ウザい。

しかもせっかくの非番に本を読んでいる私にとっては、すごい邪魔。



『ね、ホント暑い。べたべたするし、動きづらいし、はっきり言って邪魔なんだけど』

「うわ、そういうこと言うと泣いちゃうぜ、俺」

『泣いてれば?』

「冷てぇな、鵺雲は」



回していた腕を緩めるどころか、さらにぎゅっと力を入れてきた。

余計に修兵と密着する形になったせいで、背中に感じる修兵の体温がより高くなる。
それだけで体の水分がしゅわしゅわと蒸発していく気がした。



『ちょっと、何で余計にくっつくのよ!』

「言ったじゃん、仕事以外の時はくっつきたいんだって!」

『私は暑いの!離してってばー!』



腕の中でよじよじともがいてみるけれど、腕の力は全く変わらない。
私だけが無駄に汗をかいてしまった。


脱出することを諦めて、後ろの修兵の肩に頭をもたげてみる。
耳の横で修兵の呼吸する音が聞こえて、暑いはずなのに何だか妙に心地よさを感じた。

時々風に揺れる短い髪が顔に触れてくすぐったい。



「鵺雲、俺が何でこんなにくっつきたいかわかるか?」

『そんなのわかんないし…』



私を抱えたまま、私の髪に頬を寄せるようにして、ゆらゆらと左右に揺れ始めた。

子どもをあやすゆりかごのような安心感に、ついふっと笑みが浮かんでしまう。
さっきまでイライラしていたのが嘘みたいに感じた。



「ヒトってな。隙間が8p以下だと、その隙間からは出られないんだと」

『うん』

「でな、俺と鵺雲の間が8p以下なら、体だって心だって、お互いから出れねぇっつーか、ずっと離れることはないんじゃねぇかって思ってみたんだけど」

『…修兵理論だとさ、体が離れる仕事中は、心も離れてることになるんじゃないの?』

「だから離れないように、今こうやって充電してんの。俺、お前が思ってる以上に頭ん中鵺雲でいっぱいなんだからな?離れてるなんて思ったら、仕事手につかねぇもん」



ちょっと『8p』の使い方が違うような気がしてそう言ってみたら、いいんだって!とムキになって、まるで子どもみたいにゴリゴリと頭を押し付けてきた。

ホントに隊を仕切ってる副隊長なのかと思うほど、私の前では甘えてくる修兵。
私にだけ見せるそんな表情が可愛くて仕方ない。

まぁこのことはこっそり私の中だけに秘めておくけど。



『仕方ないなぁ…じゃあ修兵が頑張れるようにくっついてていいよ』

「ん」

『あと、別に8p以上離れてたって、気持ちは修兵と同じなんだから大丈夫だよ』

「マジで?」

『マジでって何よ。当たり前でしょ?でなきゃこんな風にくっつかないし』



よほどその答えに驚いたのか、勢いよく私の体を自分の方に向けさせると嬉しそうににっこりと笑った。

そしてそのまま正面から抱き締められる。



『ちょっと修兵、私のこと何だと思ってんのよ』

「俺の彼女」

『だったら気持ちが違うわけないでしょ!』

「だって、鵺雲普段そういうこと言わねぇんだもん」



そりゃ驚くだろ、と言われて、何も言えなくなってしまう。
恥ずかしいし、ほいほいと言えるわけない。

私の性格上、こういう甘ーい雰囲気だって苦手な分類に入るのだから。



「なぁ、でも離れんのやだから、こうしてていい?」

『んー…まぁ程々になら』



ちょっと間違ってるにしろ、そんな理由聞かされた後じゃ、断るなんてできないでしょ?

満足そうににこにこしながら、また後ろ向きの体勢に戻して頭をこつんと当ててきた。



「鵺雲?超好きなんだけど」

『はいはい』



相変わらず暑いし、動きづらいけど。
離れなくてもいいかな、なんて思った私はたぶん、思っている以上に修兵に惚れ込んでいるのだと思う。


背中に修兵の体温と鼓動を感じながら、私は再び手元の本に視線を落としたのだった。







end.


甘えたな修兵さんが書いてみたくて書いた結果…
キャラ崩壊もいいとこですよねorz

俺様で変態紳士の修兵も好きだけど、たまにはべたべたな感じもいいよね!…ね?



ここまで読んでくださった鵺雲様、ありがとうございましたm(__)m


Title/capriccio様 協奏曲第三番/80より
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