春、うらら。
九番隊、執務室。
窓を開けると、心地よい風が部屋に入ってくる。
その風と一緒に、桜の花びらが一枚、ふわっと舞い込んできた。
見上げると、隊舎の外に咲いている桜が見頃を迎えていた。
「…春、だな」
ぽつりとそう呟いたのは、九番隊副隊長、檜佐木修兵。
隊長である東仙を欠いてからというもの、副隊長である彼が隊をまとめあげ、書類の山をこなしていた。
慣れない仕事も多く、朝から晩まで隊舎にこもり、もくもくと仕事をする毎日。
「あー……ねみぃ」
外を見ながら、大きく伸びをして。
ふぅ、とため息をつき、再び自分の机に戻る。
が。
集中力が途切れたようで。
仕事がまったく手につかなくなってしまった。
「ダメだ、もう無理。あー、無理無理」
持っていた筆を机に放ると、背もたれに寄り掛かって、だらんと足を伸ばした。
頭を後ろにもたげると、自然に「あーー…」と力の抜けた声が出る。
虚ろな目で天井を見上げたとき、誰かの霊圧が執務室にむかってくるのがわかった。
「…この霊圧は…」
ちょっと集中してみると、間違いなく鵺雲のものであるとわかった。
そして確実に執務室の方にむかってきている。
よいしょ、と体を起こして、やがて開けられる扉を見つめる。
間もなくしてコンコンとノックがされ、扉が開けられた。
そこから鵺雲がひょいっと顔をのぞかせる。
『修兵、いる?』
「おー」
ひらひらと手を振ると、嬉しそうな顔をして、机のそばまでやってきた。
その手にはお弁当が抱えられている。
『修兵、もうお昼ごはん食べた?もしまだなら一緒に食べよ』
ちらっと時計を見ると、既に短針が1を差していた。
確かに言われてみればお腹もすいている。
修兵はにっと笑うと、席を立った。
「よーし、今日は外で食おうぜ。天気もいいし、花見がてら」
『うん』
仕事の片付けもそこそこに、外に咲いている桜のもとへとむかった。
作りすぎてしまったからと、鵺雲は修兵の分まで持ってきていた。
桜の下で、お弁当が広げられる。
色とりどりのおかずに、小さめのおにぎりがいくつも並んでいた。
見た目だけでなく、しっかりと栄養バランス的にも計算されているようで、かなり手が込んでいるようだ。
ばっちり修兵の好きなウインナーも入っている。
「マジうまそうなんだけど!もう食っていい?」
『うん、どうぞ』
ぺたんと座り、2人は少し遅めのお昼を食べ始めた。
「うまっ!!!!さすが鵺雲、俺が見込んだだけのことはあるなー」
一口食べて、修兵が声を上げる。
そして鵺雲の頭をわしゃわしゃと撫でた。
『ありがと。でもまだ修兵にはかなわないけどね』
鵺雲が照れたように笑う一方で、修兵がうんうん、とうなずきながら、どんどん食べ進めていく。
「あ、この卵焼きももらっていい??」
『うん、遠慮しないで食べて』
そんな他愛のない会話をしながら、楽しく時間がすぎていく。
結構な量が用意されていたにもかかわらず、それはあっという間に残りわずかになっていた。
そして。
「ごっそさん!!」
ぱん、と手を合わせる音がして、お弁当箱は空になった。
「あー…すげぇうまかったー…。満足満足」
そう言って、ごろん、と寝転がる。
『修兵、食べてすぐ寝ると牛になるんだよ』
「俺はそんな迷信には負けん」
鵺雲はくすくすと笑って、片付けを進めていく。
そして片付けを終えた頃を見計らって、修兵が鵺雲、と呼んで手招きをする。
呼ばれるがままに近づくと、袖をくいっとひっぱられた。
「膝枕、して」
少し顔を赤くし、小さな声で呟いた。
いつものクールな様子からは全然想像できない姿に、鵺雲は目を丸くして驚いている。
「あ、いや、嫌なら、いいんだけどよ、」
『ううん、全然大丈夫!むしろ任せて!』
修兵の言葉を遮るようにして正座をし直すと、『どうぞ』と来るように促した。
もぞもぞと膝の上に移動をすると、仰向けになり、鵺雲の頬に手を添えた。
「俺、今すげー幸せ」
鵺雲は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに『私も、』と言ってへにゃっと笑う。
それを見て、修兵も目を細めて優しく笑った。
「もう少し、このままでもいいか?…ちょっとだけ、眠い」
『…うん』
「サンキュ」
もう一度笑って、ゆっくり目を閉じる。
そしてすぐ、静かな寝息が聞こえてきた。
『…お疲れさま、修兵』
彼を起こさないように、そっと頭を撫でた。
end.
修兵夢です。
いまいち彼のキャラが成り立ってないような気もしますが…
なんか甘めに仕上がったので、良かったです(ぇ)
ここまで読んでくださった鵺雲様、ありがとうございましたm(__)m