vs.
また、この時期がやってくる。
そう。
テストという名の、拷問。
テストを1週間後に控えた私たちは、一護の部屋で教科書と睨み合っていた。
『あー、もう無理。誰が何と言おうと覚えられない』
ペンをぽいっと机に投げ、ごろっと寝転がる。
「お前なー、諦めるの早ぇよ。まだ1週間あんだろうが」
机の向こうから一護が消しゴムを投げてきた。
『痛ッ!!あー、怪我したー、もう勉強できないー』
「うそつけ」
はぁとため息をついて呆れたような顔で私を見ると、教科書に視線を戻した。
そしてまたノートに範囲をまとめはじめる。
ペンを走らせる音だけがして。
…なんか虚しくなってきた。
かまってほしいけど、そんなノリじゃなさそうだし。
よいしょ、と起き上がってみる。
起き上がったのはいいけど、やっぱりそう簡単にやる気が出るわけでもなく。
ちょっと教科書を見てみたけど、ただ文字が並んでるだけにしか見えない。
あ……気が遠くなってきた…。
瞼の重さに負けようとしたとき、どすっと頭になんか降ってきた。
何かと思って目を開けたら、一護が手をグーにして私の頭に乗せてた。
『何するの、びっくりしたー』
「びっくりしたのは俺だ。もっとやる気を出せ」
だって、と言いかけて、私はあることを思いついた。
これならきっと一護も協力してくれる。
と思う。
よし。
『あー、なんか一護がちゅーしてくれたら頑張れる気がしてきた』
「気のせいだって」
まさかのスルー。
いやいや、ここで引き下がるわけにはいかない。
『気のせいじゃないし。ちゃんと頑張るもん』
「じゃあ実際に頑張ったあとでな」
ん?
実際にってどういうこと?
「鵺雲が今からやる気出して、今回のテストで俺よりも点数が高かったら、好きなだけしてやるよ」
『今じゃないの??』
「今よりもあとのほうが、いろんな面で得だと思うけど?」
…確かに。
テストの結果もいい+一護のちゅー。
かなりお得かもしれない。
『わかった、絶対負けないし!約束だからね!』
「はいはい、鵺雲が俺に勝ったらな」
それからの1週間、私は鬼のように勉強した。
ノートにまとめ直したり、単語帳を作り直したり…。
頑張る理由は1つ。
実は、一護からちゅーしてくれたことないんだよね。
照れてるのは知ってるけど、いつも何だかんだ言って流されちゃうから。
せっかくのチャンスは最大限に生かさないと!
*******
そして、迎えたテスト当日。
いつもどおり一緒に登校して。
一護があとでしらばっくれないように、『約束、忘れないでよ』と念押ししといた。
一護は「わかってるっての」と楽しそうに笑った。
…テストは、やっぱりそれなりに難しくて。
時間ぎりぎりに終わった教科もあれば、なかなか全部できないのもあって。
…なんか、微妙かも。
いやいや。もしかしたらってこともあるしね?
とりあえず、1週間後の結果を待つことにした。
******
1週間後。
上位50名の結果が廊下に張り出される。
あー、やっぱ石田くんが1位だよね。
視線をどんどん左にずらしていく。
ん?
今、なんか見たことある名前が。
視線を少し戻してみると。
"黒崎一護"
確かに、そう書いてあった。
マジで?
一護、どんだけ頑張ったの?
私は…載ってないし。
あとから個人に渡される結果を見たけど。
一護との差は約60点。
…あーあ。
その日一日、気分は落ちたままだった。
「鵺雲、帰ろうぜ」
一護がカバンを持って机のところまでやってくる。
いつもは嬉しいはずなのに、今日はなんかあんまり嬉しくない。
…けど、避けるのもなんか違う気がして、いつものように一緒に帰った。
途中の交差点でいつもは別れるんだけど、今日は一護が送ってくれるらしい。
…何となく気まずいまま歩く私に、一護が話しかけてきた。
「鵺雲、結果、貸して」
『え?』
「いいから、貸して」
…嫌がらせ?
悔しい思いがどんどん膨らむけど、でも、一護は優しい顔をしてて。
カバンから取り出して、渡した。
しばらくその結果を見たあと、私の頭に手を置いて。
「頑張ったな」
一言だけ、そう言った。
…頑張った?
一護に負けたのに?
何を言ってるのかわからなくて、何も言わないまま見上げてみる。
「テスト前のこと、思い出してみろ。単語1つ覚えるのに苦労してた鵺雲が、自分の力でここまでできたんだ。
それって頑張ったってことじゃねぇの?」
優しく笑う一護の顔が滲む。
認めてもらったことが嬉しくて、でもなんとなく恥ずかしくて。
ばれないように、ふいっと下を向いた。
「ま、勝負は俺の勝ちだけど。頑張ったからご褒美な」
私の前髪をあげ、額に優しくキスをした。
突然すぎてわけがわからなかったけど、確かに触れた感触は残っている。
『い、一護、あの、今』
「今回はこれで。次、期待してるから」
そう言ってまた歩きだす。
ちょっとだけ、一護の耳が赤い気がした。
自然と笑みがこぼれる。
まだ熱の残る額にそっと触れ、私は一護の後を追った。
end.
ちょっと意地悪テイストの一護になりました。
テスト…私も大嫌いです。
378様より素敵御題をお借りしました。
ここまで読んでくださった鵺雲様、ありがとうございましたm(__)m