エール
「エースぅ、ひまだ―」
ベッドの背にもたれかけ、布団を腰まで掛けて本を読んでいるエースに話しかける。
「…ん―」
曖昧な返事を返したエースの手は、本のページを捲る。
この状態のエースは凄く集中している時で、全くルフィの相手をしてくれない。
わかっているけど。
(ひまだ―)
机の椅子に座り、ぐるぐると廻っているのにも飽きたルフィは、窓の外を見た。
エースのバイトも休みで、せっかくの2人揃った休日。
じとじとと降り続く雨は止む気配が全くない。
(…よし)
やるか、と心の中で呟き、立ち上がったルフィはエースのいるベッドに潜り込んだ。
もぞもぞと布団の間に入り込み、エースの胸に抱きつく。
「ルフィ。読みづれぇよ」
「だって、ひまだ!」
言って、ぎゅうっと音のしそうなくらい強く抱き付く。
「わかったわかった。キリが良いところまで読んだら構ってやるから」
ぽんぽんとあやすように背中を叩かれたが、まだ本を読む手を休める気配はない。
(今日はこれだけじゃダメか―)
心の中でちぇっと悪態を付いて、エースの胸に顔を埋める。
とくん、とくんと一定のリズムを刻む胸の音。
少し香る、いつもエースの付けている香水の匂い。
肌に感じる、体温。
こんなに密着していても、こちらを向いてくれないエースにルフィの心の中にチリ、と火が灯る。
(…ぜったい、落とす)
抱きついていた腕の力を弱める。
顎を引いて、意識的にエースの顔を見上げながら舌足らずに名前を呼ぶ。
一瞬こちらを見た瞬間を逃さず、少し顔を傾けて。
「…エース、構って?」
胸に回していた腕を首に廻し、ちゅっと小さな音を立てて唇に触れる。
見開かれた目をじっと見つめ、ぺロリと軽く自分の上唇を舐めて、更に首を傾げて問う。
「ダメか?」
「…………お前、それ計算?」
「けいさん?」
なんだそれ?なんてとぼけながら唇を尖らせる。
(この顔、ちゅ―したくなるって言ってたからな)
目線を外さす、唇を尖らせたままエースを見つめていれば、エースがはあ、とため息をつきながら目を閉じた。
と、共にばさりと本が落ちる音。
「言っとくけど、誘ったのはお前だかなら。責任とれよ」
そう言って開かれた目。その瞳は、獲物を捕らえた獣のようで。
(…勝った)
ルフィは、ぞくりと腰に走る甘い痺れを感じながら、近づいてくる顔に満足そうに微笑んだ。
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初代拍手お礼文。
小悪魔なルフィも好き!
2012.04.06
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