金曜日。
午後の講義を終え、帰宅の準備をしている所に、がし、と肩を掴まれ耳元で名前を呼ばれる。
「おい、エース!!」
「なんだよ、うるせぇな!耳元で叫ぶな!」
リーゼントも邪魔なんだよ!と手を振り払った相手は、大したダメージを受けた様子もなくニヤニヤと嬉しそうに笑っていた。
こいつのこの顔の時は、大体いい事が起きないと思っているおれは顔を顰める。
「今日バイト休みだろ!飲み会行くぞ!」
「行かねえ」
「弟の面倒みなきゃいけないからだろー?今日はもう大丈夫だぜ!」
『弟』という言葉に、更に顔を顰める。
そんな事お構いなしに、顔の前にずいっとサッチが携帯を見せつけた。
「弟君の承諾済みだ!」
ニヤニヤとしたままのサッチから差し出された携帯はメール画面になっていた。
その画面の送信者の欄には、最愛の弟”ルフィ”と書いてある。
―――――――――
7/21 16:45
From ルフィ
To サッチ
Sub Re:久しぶり!
-----------------
ひさしぶりだなー!
今日エース遊び
いくんだな!
わかった!
―――――――――
「…おい、リーゼント。まず聞きたいことがある。なんでお前がルフィのアドレスを知ってんだ」
多分、今のおれの後ろには炎が見えるだろう。
問い詰めようとサッチのリーゼントを掴もうとした所で、聞きなれた着信音。
この指定音はルフィだ。
『あ、もしもし?エース』
「ルフィ!!お前、なんでリーゼントとアドレス交換してんだよ!!兄ちゃん聞いてねえぞ!!」
『この前遊びに来た時に教えろって言われたから教えたんだ。エースの友達だろ?ダメだったか?』
「ダメに決まってんだろ!!今すぐアドレス消せ!!」
『えー?あ、あとマルコもアドレス交換したぞ!』
「あんの、腐れパイナップル!!!油断も隙もねえ!」
『それより、エース!今日遊びに行くんだろー?
今日はおれの心配しなくていいから、遊んでこいよ!
たまには友達と遊ばないと、サッチもマルコも寂しがってるぞ!
じゃあ、授業戻る!』
そこまで早口で言ったルフィが、ブツンと電話を切った。
耳に当てている携帯からはツーツーという機械音。
な!行こうぜ!と横から喚くサッチに、はあ、と溜息を付く。
「……わかったよ。行く」
「よっしゃ!そうでなくちゃなーっ!」
「つーか、その前にルフィのアドレス消せ!!!」
叫んだおれの言葉を無視して、飲むぞー!と肩に腕を回したサッチ。
その腕をまた乱暴に払いのけ、片付けの途中だった教科書を鞄につめる。
「お前居酒屋で覚悟しとけよ!取り調べだ!!あと、やり残した家事があるから一旦帰らせろ」
「…お前、ほんっとにまじめだなあ」
ハゲるぞ!と言ったサッチに蹴りを入れる。
ハゲるのはそんな髪型してるお前だろ!
「じゃあ、終わったら来いよ!」
いつもの居酒屋なー!という声を背に、講義室を出た。
サッチとマルコめ。後で覚えてやがれ。
*
「あれ?なんでエースいるんだ?」
夕飯を作っていた所に帰宅したルフィに、残っていた家事を済ませたかったからと説明をする。
そっかあ、と言って自分の制服を着替えに行ったルフィの背中を見つめ、夜に遊びに行くなんていつ振りだろうと考えた。
正直、ルフィがいれば本当に遊びになんて行かなくてもいいのだけれど。
気を遣ってくれたであろう弟の思いを無下になんて出来るはずがなく。
そんな事を思いながら出掛ける準備を進めた。
部屋着に着替えたルフィがリビングのソファにじっと膝を抱えて座っている。
その後ろ姿に、行ってくるな、と声を掛けると玄関まで見送りに来た。
「メシ作ってるから、食べたら先に寝てろよ。なるべく早く帰ってくるから」
浮かない顔をして俯いていたルフィの頭をぽんぽんと撫で、ドアノブに手を掛ける。
「…なぁ、エース」
「ん?」
その言葉に振り返ると、ぎゅっとおれのシャツの裾を握ぎりしめるルフィの姿。
そして、俯いたままポツリと言葉を溢す。
「……やっぱ行くのイヤだって言ったら、おれのことキライになる?」
顔を少し上げて、こちらを見上げている目は潤んでいて。
「…………お前、誘ってんの?」
ルフィが何か言葉を発する前に、顔を引き寄せて口付ける。
んっ、と漏らした唇に何度も自分の唇を重ね、最後にちゅっと音を立てて離れて細いその身体を抱きしめる。
「嫌いになる訳ねぇだろ」
寧ろ、嬉しすぎて死にそうだ。
ルフィを抱きしめたままズボンのポケットに入れていた携帯を取り出し、電話を掛ける。
「あー、もしもし?」
『お前、遅えよ!早く来いっての!』
「悪い。急用出来たからやっぱ今日行けねえわ」
『はっ!?ちょっ、いきなり…』
サッチがまだ何か言いかけいたが、お構い無しに電源ボタンを押して携帯を投げ捨てる。
腕の中の温もりを持ち上げ、自分の部屋のドアを蹴り破る。
「…行かなくていいのか?」
「行くなって言ったのお前だろ。それに、」
とすん、と抱えていたルフィをベッドに倒し、頬に口付ける。
そして、おでこをくっつけて優しく微笑む。
「ルフィが可愛すぎて、それどころじゃねえよ」
申し訳なさそうな表情をしていたルフィが、嬉しそうに笑いながらおれの首に腕を回す。
「しししっ。エース、大好きだ!」
「…今日はまじで歯止め効かねぇからな」
いーよ、と言ったルフィに噛みつくようにキスをした。
--------------------
その後、エースはきっとサッチに文句言われますよね!
そして今度は、サッチが携帯を奪われ、「折られたくなかったら今すぐルフィのアドレスを消せ」と笑顔で言われます^^
マルコはエースを上手く丸め込み、ルフィのアドレスを削除せずに済むと思います。
2012.07.21
【戻る】