女の子は砂糖とスパイスと、それから素敵な何かで出来ていると書いてあったのはマザーグース?



 そうは言っても、実質この私の構成の材料は駄肉と骨と欲と煩悩と自称毒くらいなものかなぁとか思ったり思わなかったり。
 魂の質量というのも実際どうなのだろうと思ったりもするけれど、とにかく私が言いたかったりするのは、そんな砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ているような存在にはなれなかったし、だからといってなりたかったわけでもないけど、けれどその一種の夢のような娘が一人くらい存在してもいいかなと考えたわけですよ。
 クラスにそんなような天使といずれ出会えると信じてもみたけど、高校も三年になっても出会えないとなると。なんかもう一つの絶望というか失望ですよね。
 え、失禁なんて一言も言ってないですよ。そしてこの先の人生で女の子や女性と出会うチャンスが無いわけでもないけれど、私は砂糖とスパイスと素敵な何かで出来ているような女の子が欲しいわけで。
 完全に私の所有じゃなくてもそれは良いのだけれど、だけどその。彼氏とか何やらとっかえひっかえな、そんな人じゃなくてですね。
 つまりは乙女を愛でたいわけなのですが。乙女の意味は察してくださいな。察することが出来なければ私の続きについてくる必要なんてありませんので、出口はあちらということで。残ったお人だけ片方のお耳だけでも。
 もう片方の耳が余るというならカステラでも突っ込んでおけばいいでしょうが。


 さて、話は繋がってはおりますが、切り口変わりまして知っておりますかパラケルスス。ええ、私はほとんど知りません。話を振っておきながらこの仕打ちは非道いと思ったら耳かきの上の羽毛部分でも詰め込んでおけばいいじゃないですか。責任は全て自己にあるのです。


 そんなことなんて言って何て私の一人芝居。舞台は私の部屋のベッドの上で。倩兮。


 いえいえそんなことはありませんね。それこそ嘘で偽装で虚構でありますれば。貴女が聞いておりました。私の可愛い可愛い貴女が。


 ホムンクルス何て硬質な名称なんて似合わないので名前を考えたところ、この胸と同じく貧相な語彙力とミジンコ規模の甲斐性からしてこの子にふさわしい名前なんて見当たらなかったのでパラケルスス繋がりでシルフと読んでおりますが。私が名付けるなんてそもそも恐れ多い気がします。でも分かりませんが、彼女自体全て偶然の産物。私がうっかりと生命を持たせてしまったような彼女は今も私を見ながらフラスコの中で笑っております。残念ながら服は着用しておりませんし、思った以上に幼子ですが、そこはそれ以上求めたら贅沢が過ぎると天罰が貫きそうなので、妄想力で補います。本音は十年分くらい成長して欲しいですが……あれ、おかしいですね。彼女の視線で身体が痺れてきました。黙りましょう。


 ホムンクルスの本来の作り方は、何だか全然素敵じゃ無くてですね。蒸留機に精液を入れて四十日腐敗させるなんて。そもそも私はその材料を持ちえないから無理ですけど。あったからといってやりたくもないですけど。パラケルスス、それをしたのですね。はぁ。ある意味感動ですね。数種類のハーブと糞を足すというのもありますが、それで出来た子を愛でられる気もしないわけで。

 
でもまた別の作り方もとりあえず私には非現実的で、五月の三日月の晩の夜露は1マスなんて、それくらいなら構いませんが健康な青年からとった血液2マスなんて、自称普通の女子高生が手に入れられるものですか。でもとりあえずクリスタルガラスの容器は用意しました。ええ、一応。手の届く範囲で。無理はしません。石橋は叩いて壊してきました。


 自分の血液を提供することは全然構わないのですが、自分で血を抜くとか、だからといって切る程の勇気も覚悟も度胸も、そもそも血液量が乏しかったので、私が理想材料をとにかく投入して腐食させてみることにしたのです。錬金術師というより魔女の気分! なんて一瞬浮かれましたが、ある意味幼稚園児が宝物を集める行為とドングリの背比べだと思ったのでドングリも材料に入れました。帽子付きの可愛いのを。やじろべえを作るという案は、数個の犠牲により却下されました。


 ドングリはいわゆる、素敵な何かに部類されるはずなので、重要なのはお砂糖とスパイス。高級なほどいいわけでもない気がしたので、キッチンから適当に砂糖は拝借しました。持っていきすぎると怒られそうなので計量スプーン5杯という微みょ……絶妙な量。そして問題はスパイスです。キッチンから拝借しましょう。決してケチっているわけではございません。無駄にスパイスを大量に摂取してないのです。買い置き無くなったら発狂するとか学校では言えません。ツイッターでは晒しています。


 輪切り唐辛子をひとつまみ。白胡椒をひとふり、黒胡椒はすりたてをたくさん。シナモンは粉末に加え、スティックも。滅多に使いませんけど、七味唐辛子も適当に。一味唐辛子も足したとこで唐辛子入れすぎかなと気づいた遅い。バニラはエッセンスで妥協して、庭から収穫したミントを数枚。茗荷とかもスパイスらしいけれど割愛。これは私が食べる。シナモンが重複するけどガラムマサラを入れて(ここでガラムマサラがミックススパイスというのを知っている私に満足感を覚えながら)、何となくガムシロップを入れてみたのであとは素敵なものを足しましょう。


 いつか貰った星の砂を瓶から少し。輸入クッキーのかけらをひとつ。いつか買った、香水を1プッシュ。海で拾った桜貝らしきものの片側。ついでに茶色いシーグラス。幼稚園の時の服の予備ボタン。紅茶の茶葉をひとつまみ。ビーズを数粒。画用紙の端っこ。梅シロップを1滴。絆創膏1枚。蝋燭の短いのをひとつ。そのへんで拾った小さな歯車。その他ちまちまエトセトラ。夜露なんて数滴しか手に入らなかったのでそれと、せめてのものと海洋深層水を入れてみたりして。でも何か腐る自信が無かったのでグレープフルーツとか入れてみたところで栓をして。誰にも見えないところに置いて40日。


 貴女はうまれました。


 どうやって肉体があんなものから形成されていたかなんてわからないけど、事実そこにいるんだから。と頭の中で整理して。驚きのあまり声をどこかに落としてきたので何故か土下座した。どちらかというと、うみだした直後の罪悪感の方が強かったのです。


 その後は彼女に声をかけることが日課になりました。ちなみにごはんは、彼女を構成した物質を与えるので十分でした。お砂糖の減りが早くなりました。罪悪感で、自分でそれは買うようにしました。他は、まぁ。でもそんなことを繰り返すと彼女は成長を始めました。今は、それが楽しみで仕方な――。



 ここでしばらくの時が過ぎまして――。



          ○


 まぁ、そんなもんですよね。割れたガラスには、諸々ゴミのように材料が散って、少女の姿もどこにもないのです。思い出も砕け散った気もしますが、割ったのは私です。ええ、窓の外へ投げまして。

 だって、彼女が。

 私の顔に近づいてくるんですから。それは気づきますよ。

 私が作ったのは、私なんですよ。

 私が砂糖とスパイス以外に足した素敵な何かって、結局は私の好きなもの何です。

 そして私が多少なり女の子だったというなら、それは完成するのは私ですよ。それに沁み込んだ思い出も何から何まで私何ですから。私しか作れない私何ですよ。

 そんなことを思っていたら、私は既に地面にいましてね、砕けたガラスと共に。何故か私まで追って飛び降りていた、からそうなったはずなんですが、これまたおかしくて、ですね。

 私の姿が、6歳の時の姿になって、それを見ているんですよ。そして私は横たわってなくちゃいけないはずなのに、その6歳が私何です。女子高生の私を見ながら。

 そしておかしいことに、私を迎えにくるお母さんが若いんですよ。そして見ちゃいけません! って言って、女子高生の私から遠ざけるんですよ。

 そして、これまたデジャヴのようなんですよね。見憶えがある光景が。体感してから気づきましたが。


 大分経って、中学生になった頃、私はループしていたのか。となんて気づきましたけど、その時またどうしてこうなったかを忘れて、また高校生の私を足元に見るのです。


 何にせよ、私は確かに、砂糖とスパイスと素敵なもので、出来ていたことには違いありません。






――吐く独白は剥離を口説けず
 


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