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「刹那…刹那。遅刻しちゃうから早く起きなさい」
ゆさゆさと身体を軽く動かしながら寝ている子供──刹那を起こしにかかっているのはディランディ家の大黒柱ニール。少し長めの髪は後ろで緩く結ってある(家事をするのに邪魔になるため)
「う、にぃる………おはよ…」
「お、起きたな?朝ご飯出来てるから顔洗ってきな」
「うん…」
まだ寝ぼけているのか足元が不安定な刹那が部屋を出たのを確認してからニールも部屋をあとにした。こうしないと二度寝して遅刻してしまう危険性があるからだ。
さてダイニングに行くとニールの双子の弟──ライルがすでに食事を始めていた。いつもなら刹那が来るまで待っているのだが、どうやら朝から忙しいらしく慌ててパンを頬張っていた。
「あのなぁ…こんなことになるならもう少し早く起きろって」
「違うんだよ!朝っぱらから電話きて、朝会議あるの言い忘れてたわー、って言われたんだぜ!?くそぉ…あの酒豪上司ぃ…」
「またか…まったくミス・スメラギは…」
「お昼はテキトーにすませるから弁当はいいや。とにかくもう行くわ」
パンとベーコンをコーヒーで流し込むとライルはどたばたと家を出て行った。入れ替わるように洗面所に行っていた刹那がダイニングに現れた。いつもいるはずのライルがおらずきょろきょろとダイニングを見渡した。彼がいないことを知ると少し残念そうに自分の定位置に座った。
「…ライルは?」
「朝から呼び出しくらってもう出た」
「そうか…」
焼いたパンを頬張りながら刹那はそう返事を返した。ニールは口に物を入れたまま喋らない、と注意しようとしたがしゅんとしている彼を見てやめた。
(やっと、普通の生活を手に入れたんだ…これくらいは、)
刹那は孤児だった。夜更けに孤児院から抜け出して街を歩いていたのをニールが見つけ声をかけたのが出会いだった。話を聞く限りまだ幼いころに孤児院の前に捨てられ保護され過ごしてきたという。親の愛情を知らぬまま育った彼は愛情に飢えていたらしく時々孤児院を抜け出しては街を歩き親子を見つめていた。ニールと出会ったあの日は何故か夜更けに行きたいと思っただけらしい。
その後刹那を気に入ったニールが正式な手続きを済ませ彼をディランディ家の一員とし現在に至る。
「…そろそろ行ってくる」
「ほい、今日の弁当」
「……いってきます」
「いってらっしゃい、刹那」
弁当とスクールバックを持って刹那は玄関から駆け出して行った。今年から高校に入ったのだ。友達もでき毎日が楽しいと彼はニールに話す。
「さぁて…掃除と洗濯しますか!」
ぐぐっと背伸びをし、ディランディ家のいちばん大きな窓を開けた。するととても気持ちのいい風が部屋に入ってニールの結った髪を揺らした。
今日もまた素敵な1日が始まる。
わんだふるでぃず
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