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マルクト帝国軍には名物の双子と大佐がいる。
緋色の髪が特徴の双子の兄、アッシュ・フィオーネ少佐。
朱色の髪が特徴の双子の弟、ルーク・フィオーネ少佐。
死霊使い(ネクロマンサー)の異名を持つ男、ジェイド・カーティス大佐。
これは彼らとその周りの日常を描いた話である。


「お呼びでしょうか、アスラン少将」
「あ、楽にしてくださいルーク」
「……で、また陛下を?」
「そう、です。陛下を捕まえて公務をさせてください。あなただけでは大変なのでアッシュとジェイドさんを連れて行ってくださいね」
「またかよ…」

ルークとアスランの話に上がった陛下──ピオニー・ウパラ・マルクト9世も双子とジェイドに加えてマルクト帝国の名物皇帝になっている。気がつけば街に繰り出しているというまあ言ってしまえば脱走がお得意な皇帝様なのだ。しかも四捨五入してしまうと四十になる年齢だが未婚、ついで言っちゃえば叶わない片思いが原因なのだ。片思い相手の兄であるジェイドはさっさと恋人作って結婚してくださいと口をすっぱくして言っているものの、当の本人はどこ吹く風である。

「で、重鎮の皆様方はどこまでならいいって?」
「ジェイドさんのインディグネイションまでなら、と」
「……つまり生きてればいいんですね…」

重鎮の皆様方も随分と困ってるんだなぁ…と頭をかきながらルークは思った。さて上司の命令とあらば逆らえまいと任務を受諾し、ルークとアッシュが双子ゆえなのか不思議な力によるものなのか互いに離れていても会話が出来るのだ。とても便利なので“便利通信網”と呼んでいる。

“アッシュ”
“ルークか。どうした”
“アスランさんからの命令。ジェイドも連れて宮殿の門の前に集合”
“あぁ…陛下連れ戻しか”

ルークとアッシュ、そしてジェイドと言う組み合わせはピオニー連れ戻し任務の時に組まれる。それは軍や重鎮たち、そして国民全員はピオニーの連れ戻しに来てるんだなだなとの認識になっている(それもどうかと思うが)おかげでマルクト軍の名物になってる。

“…とりあえず眼鏡連れてそっちに行く”

そう言うとアッシュの方から“便利通信網”が切られた。それを確認したルークは軍服を翻しアスランの部屋から去って行った。


******


「やれやれ。陛下じゃなければほっとくんですがねぇ…」
「そう言うな。さっさと連れ戻しに行くぞ」

アッシュ、ジェイドと合流したルークは早速街中に繰り出した。ほとんどの場合、宮殿が置かれているこのグランコクマにいるのだが稀にジェイドの故郷であるケテルブルクに脱走してることがあるのだ。あそこにはスパやらカジノやらがありそこで羽を伸ばしている。

「で、今回もこいつ使うの?」

ずいっと目の前に出された──ルークの両手に抱かれた状態で──ブウサギのジェイド(陛下いわくかわいい方のジェイド)を見て人間のジェイドは満足そうに笑った。

「さすがルーク。準備がいいですね」
「しかし陛下も気づかないのか…脱走してもこのブウサギが居所を完璧に掴むこと」
「おかげで前よりは陛下探すの楽になったけどな」

そうブウサギのジェイドは陛下が脱走する度に捜査に連れ出され無事にそれが終わるとご褒美としてニンジンをあげる。何度か繰り返していくうちにご主人様を捜す=ニンジンがもらえるの方程式が成り立ち人間のジェイドと双子に懐いてしまったのだ。ついでに言うと懐いた理由がニンジンをくれるのと思いっきり外で走らせてくれるというものだ。

「さぁ、かわいい方のジェイド。陛下を捜してきてくださいね」

そう言われるやいなやブウサギのジェイドは物凄い勢いで走り去って行った。それを見送った3人はいつものように街中の小さなカフェテラスに向かうのだった。


******


「いらっしゃい、また陛下の脱走ですか?」
「えぇそんなところです。コーヒー2つとストレートティーを」
「かしこまりました」

小さなカフェテラスだが雰囲気もいいが、なによりも大通りに面しているためブウサギのジェイドが戻ってきて陛下捕獲に行くまでにあまり時間がかからない。そんな理由で陛下連れ戻しの時にはここで時間をつぶすのが常だった。店長もそれを知っているためたまにケーキやクッキーなどを差し入れしてくれる。軍務中だろと思うがどうやら陛下連れ戻し=働き詰めの双子+ジェイドの息抜き時間と認定されているためお咎めはまったくない。

「ルークさん、新作のケーキなんですけどよかったら試食しません?」
「マジですか!?食べたいです!」
「アッシュさんとジェイドさんには今年出たばかりのチェリーで作ったタルトを」
「いやー、ありがたいですねぇ」
「……いつもすまない」

甘党なルークはケーキなどを差し入れされる度に目を輝かせながら喜んで食べている。新作ケーキの試食の際にはアドバイスもしていて彼がアドバイスしたケーキは毎回人気商品になるのだ。一方そこまで甘党でないアッシュとジェイドには甘さを控えたものが出されることが多い。ブウサギのジェイドが戻って来るまで3人はゆったりとした時間を過ごすのだ。

「あ、戻ってきた」

ぷぎぷぎ鳴きながらルークのブーツを引っ張りピオニーがいたところに案内しようとする姿に、アッシュは少し待てという意味を込めて小さめにカットしたタルトをブウサギのジェイドに与えた。

「今回はグランコクマにいるみたいですねぇ」
「それならそれで助かるけど」
「ルーク、食べ終わったか?」
「うん」
「では、まいりましょうか」

店長に代金を支払い、ぷぎぷぎ鳴くブウサギのジェイドの先導で、ピオニーがいるところに足早に向かう3人だった。


soldier's daily


End


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