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あの子は泣かない。
涙を見せない。
自分よりも他者を心配する優しい子。

でも、それは私にとって、今にも消えてしまいそうな儚い姿に見えてしまう……




































髪を切り落とす前は、世間知らずのお坊っちゃん。記憶が無くて、わがままで。
そんな彼にイライラすることが何度もあった。

でも、知ってしまった。彼は、私の犯した罪の……

それを認めたくなくて、目を反らし続けて、あげく突き放した。そのまま、置き去りにもした。まだ、7歳の子供を。

再び現れた彼は、長く美しかった朱色の髪を切り落としていた。

セントビナーが崩落する前に、先を急ぐ彼の姿に怒ったことがあった。するとビクリと肩を震わせて私を見た。その目は宝石のような深い翡翠色で、怯えが見えた。

「また、置いていかれる」

「また、同じ過ちを繰り返すの?」

「“レプリカ”なのに、いきがってごめんなさい」

「何でもするから、捨てないで」

そんな風に言っているように感じた。

その時にひどく後悔した。
彼を、追い詰めて怯えさせたのは私たちなんだ、と。

今、私は、世界は、たった7歳の子供に最悪の選択肢を突きつけた。

世界を見捨てるか。
世界を生かすか。

世界を生かす……すなわち生命を世界に捧げろと、そう言った。残るなら、レプリカよりもオリジナルだとも。

ガイに胸ぐらを掴まれ、怒鳴られた。
私も彼に生きていて欲しいと思う。だが、世界の答えは彼かオリジナルと1万人のレプリカを引き換えにした存続。私は軍人である以上、国に従うしかない。だから、残酷な答えしか言えない。

彼は、一晩考えさせてくれと言い外へ出ていった。
そこで、また後悔した。


翌日、彼は言った。

「オレ…やります」

はっきりとした声が、大聖堂に響いた。
やっぱり、彼は泣いていなかった。


この世界に神様がいるならば、預言(スコア)なんて消し去ってください。障気なんてなくしてください。
そして、あの子に幸せを。涙を流させてください。




泣きたい時には泣いてもいいんですよ。
その言葉を伝えられない自分に、ひどく嫌悪した。


End


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