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不動と影山が会っているところを見た。髪の色は違っていたけど、あの笑い方は紛れもない影山だ。
ここまで来ているのに、影山の呪縛から逃れられないのか、オレは……
──鬼道、お前は私の最高傑作だ!!
頭を鈍器で殴られたみたいに痛い。割れるんじゃないかってくらい叩かれてる感覚がする。
「鬼道、大丈夫か…」
冷や汗を流して動かないオレを心配したのか、佐久間が顔を覗いてきた。その顔にも困惑の色が浮かんでいた。
「大丈夫だ……不動が会っていた男を探すぞ…」
そう言って佐久間と別れ、走り出した。あてなんかない、自分の足と勘だけが頼りの捜索だ。
「くそ…何処にいる…あの男は……」
ひたすら走って走って走って走って走りまくった。気がつけば濃い霧がかかっていて、どの方向から来たのかわからなくなってしまった。
(下手に動かないほうがいいか……)
近くにベンチがあった。疲れた足を休ませるため、腰をおろした。
(さっきまで、晴天だったのに…)
ぼんやりとそんなことを思っていたら、コツコツと誰かの足音が近づいてきた。こんな濃い霧じゃ誰だかわからないため、ベンチから立ち上がり身構えた。
ゆっくり、ゆっくりと近づいてきた足音。その姿を見たとき、オレは混乱した。
目の前に現れたのは……
「オレ……!?」
背丈も同じ。髪型もマントもゴーグルも同じ。まさしくオレ自身だった。
「はじめまして、鬼道有人」
くつりと笑って、そいつはオレの名前を呼んだ。ただその笑い方は何処か狂気じみていた。
「お前、誰だ……」
「オレか?オレはデモーニオ。さしずめ……お前の影…みたいなやつかな?」
またくつりと笑う。頭で警鐘がなる。逃げろ逃げろ逃げろ逃げろと警告を出しているのに身体が動かない、動かせなかった。
「そうそう、あの人からの伝言。伝えとくぜ?」
──鬼道、お前は逃げられない。私の元から、永遠にな……
その言葉を聞いた瞬間、オレの意識はブラックアウトした。
「…う、きど…、鬼道ッ!」
「……さくま…?」
気がつけば目の前に佐久間がいた。そしてオレはベンチに寝せられていた。
「何があったんだ、鬼道」
「……わからない…思い出せない……」
気づく前に何があったのか綺麗に抜け落ちていた。ただ頭に響く声はあったが……
──オレはデモーニオ。さしずめ……お前の影…みたいなやつかな?
現実に何があったのかわからなかったが、抜け落ちている部分は夢幻であって欲しいと頭の中で願った。
夢幻-ユメマボロシ-
(頭に響く声)
(仮にそいつが現実にいて、会ってしまったら……)
(オレは一体どうなるのか考えただけで怖かった)
End
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